スンナリいくかと思った監督就任交渉が意外な難航を見せた阪神タイガースと鉄人アニキ。指導者経験がないことや重責のプレッシャーが壁となったとされるが、交渉現場では両者のプライドをかけたガチンコの駆け引きがぶつかり合っていた──。
「やっぱりチームの雰囲気、ムードを変える必要があると思う。来季からは一新して、一から作っていく。来年より再来年、再来年より次の1年と、しっかりしたチーム作りをしていかないといけない」
これは阪神・南信男球団社長(60)が、V逸と和田豊監督(53)の退任を受けて、10月13日の会見で発したセリフだ。来季からのテーマである「変革」を念頭に置いての決意表明だった。同時に、
「勝ちながら育てるのが理想だが、腰を据えてやっていくべきじゃないかと思っている。フロントを含めてタッグを組み、地道にチーム作りをやっていきたい」
と述べ、「新体制」における全面的なバックアップを約束したのだった。想定していたのはもちろん、「金本知憲新監督(47)」である。
9月27日に優勝の可能性が完全消滅すると、次期監督をOBの金本氏に要請することが判明。03年に広島から阪神にFA移籍し、星野仙一監督(68)の下で18年ぶりの優勝に貢献、05年も不動の4番として優勝に導いた功労者であり、大スターである。
1回目の交渉は10月1日に、兵庫県内のホテルで極秘裏に行われた。
「この席での主な話題は、金本氏の野球観やチーム再建に関するもので、具体的な交渉というものではなかった。10月8日の2回目の交渉でも同様に、実務的な話はなかったといいます」(スポーツ紙デスク)
事実、金本氏も後日、
「お互いの意見交換みたいなものだった」
と話すなど、条件などの具体的な話は出なかったことを明かしている。
2回目の交渉から2日後の10月10日、金本氏は富山県黒部市での講演会に登壇。まだ交渉途中という状況ゆえハッキリとした物言いはできないものの、揺れる胸中を語っている。講演会に参加した金本ファンが話す。
「時期が時期だからなのか、マスコミの取材制限を通達する掲示やアナウンスがあり、ピリピリしたムードでした。冒頭でみずから監督就任問題に触れ、『実はもう決まりました。川藤幸三さんが監督をされます。間違えました、亀山努でした。冗談はさておき‥‥』と前フリをしたあと、阪神にFA移籍した際の話題に移りました」
金本氏は星野氏に阪神入団を誘われた時のことを、
「阪神に行くのが嫌で、最初はお断りしました。阪神は当時、暗黒時代で4年連続最下位、野球のレベルも低い。そのくせ人気があってチャラチャラしている。大嫌いな球団だった。それが星野監督が来てガラッと変わりましたが、まだ信用できなかった」
と回想し、星野氏を「あのウソつきオジサン」と評して会場の笑いを誘ったという。