全権移譲を望む中で金本氏がさらに強くこだわったのは、コーチ人事だったという。スポーツ紙デスクが渋い表情で言う。
「2人の現コーチの留任を強硬に拒否した。この人たちは絶対に嫌だ、と。でも球団は残したい考えだった。金本氏には他に入閣させたい人材がいますから」
10月15日、球団はその2人のうちの1人と来季の契約を結ばないことを発表。金本氏の希望の一部が通った形となった。
「とはいえ、球団と金本氏の話し合いは両者の要望、考えがうまくかみ合ったとは言えず、全体的に平行線をたどったまま終了しました。南球団社長は、あらかじめ用意していた『覚悟を決めて、引き受けてくれないか』という殺し文句を繰り出しましたが、あとは金本氏の決断しだいだと」(スポーツライター)
こうして「全権監督」の確約は得られないまま、大きな決断を下すこととなったわけだが、金本氏にはもう一つ「困ったセリフ」を球団サイドから浴びせられていた。球団関係者が声を潜めて言う。
「そもそも(監督を)やるつもりがないなら最初から断っている、という見立てのもと、『今回断ったら、もう二度と(監督、コーチ就任のオファーは)ない』という、一種の脅しをかけられたのです。ファンもガッカリするでしょうし」
何とも悩ましい状況に置かれた金本氏は最終交渉の2日後、京都府内での講演会で「(監督を)やるなら人生をかけてやる。あと少しだけ待ってください」と胸中を明かしたのだった。
一説には、今の阪神は選手の高齢化が目立つ一方で、若手が育っていないことに不安を感じ、「勝てない可能性」を危惧しているとも言われた鉄人。だが、先の富山の講演では観客から注目選手は誰かと聞かれ、
「タイガースでは江越(大賀)かな」
と、「俊足、強肩、巧打」で大成を期待される昨年ドラフト3位ルーキーを推奨するなど、育成の「意欲」ものぞかせていたという。
さらには、こんな提言もするなど、「就任」を意識したかのような発言も飛び出していた。
「金本さんが現役時代、鳥谷に対し、ゲッツーになりそうな場面での全力疾走を説いたところ、鳥谷が実行して内野安打が増えたエピソードを紹介しながら、『そういうのはコーチや監督が叱るべきだけど、タイガースはコーチや監督が甘い。選手の機嫌を取る。だいたい、コーチや監督が選手に好かれようと思うのが間違っているんです。厳しさがない』と。そのとおりだと思いました。金本さんがみずから、それを実行してくれるといいんですが‥‥」(講演参加者)
そして返答期限の日、金本氏が下した決断は「受諾」。鉄人新監督の下、はたして来季の阪神は生まれ変わるのか──。