講演参加者によれば、星野氏の電話攻勢と熱意に負ける形で阪神入りを決めた金本氏は、移籍交渉の席での「ウソつきエピソード」をこう明かしている。
「星野さんは僕の目を見て『金は好きなだけやるから。今までケチだったタイガースは、お金を使わないと勝てないことがわかった。金庫が開いた』と言ったので、期待しました。でもパッと紙を渡されたら、金額は現状維持。そのあとに星野さんが『お前がゼニカネ言わん男やということはワシャよう知っとる。お前のそういうところが好きなんや』。泣く泣く受け入れました。でも、今ではタイガースにすごく感謝しています。あれだけ嫌だったタイガースが第二の故郷になった。いつかどこかで‥‥いつかどこかで、ですよ。恩返ししたいな、と」
「恩返し」、すなわち監督就任要請に応えたい気持ちを吐露したのだ。
さらには達川光男氏から電話があり、「アンタ、監督やるんね? 監督は大変よ」と言われたこと、父親には「ええ話やから、やったらどうや」と後押しされたことなども告白している。
「質疑応答では指導者になる夢はあるかと聞かれて、『ないことはないですよ。あります。タイミングが大事です。相手にこちらの情熱が伝わる、この人のために頑張ろう、と思われる指導者になりたいですね』と答えていた。やるつもりは十分あるんだろう、と感じました」(前出・講演参加者)
金本氏を阪神に誘った星野氏もこの件について、「こういうのはタイミングやから、迷ったら引き受けろ」とエールを贈り、今がその「タイミング」だと説いているのだ。
この講演会のあと3回目となる10月12日の「最終交渉」の席でようやく突っ込んだ話し合いが行われ、返答期限が10月17日に設定された。球団関係者が明かす。
「条件提示は年俸1億円前後で、3年契約。坂井信也オーナーは『5年でもいい』と言っています。金本氏が渋ったというか、熟考を要した最大の理由は、編成、人事の権限をくれることをオーナーに約束させたかったから。つまり、星野政権のように、全権監督を要求したわけです」
全権とはすなわち、組閣、補強、チーム編成の権限にほかならない。球団関係者が続ける。
「フロントが勝手にトレードをしたり、意に沿わない新外国人を取ってきたりされても困るからですよ。一からチーム作りを任され、変革を求められるのであれば、権限を持って好きなように改造できる立場が欲しい、というわけです。とはいえ、坂井オーナーはそんな約束をさせられるのも困るので、金本氏と会おうとしなかった」