「それで今日は、どこのどいつを殺(や)れとおっしゃるんで?」──藤田まことの代表作となった「必殺仕事人」(79~92年、ABC系)は、庶民のうっ屈した恨みを晴らして大ヒットした。紅一点の「何でも屋の加代」に扮した鮎川いずみ(64)が、思い出の場面を語る。
「必殺」のシリーズに二枚目はたくさんいましたよ。三味線屋の勇次(中条きよし)に飾り職人の秀(三田村邦彦)、鍛冶屋の政(村上弘明)に組紐屋の竜(京本政樹)も。だから仕事人たちの連絡係である「何でも屋の加代」は、気取る必要がないんです。
以前も時代劇には出ていたけど、加代のキャラクターに合わせて全てのしぐさを変えました。これまでが流し目の色っぽい表情なら、加代は上目使い。内股で歩いていたのが、「金のためなら」とふくらはぎが見えるくらい大股で走って。
いや、どこかにお金が落ちてないかと、軒下を探すような歩き方にまで変わりましたから(笑)。
── 92年で女優業を引退し、実業家に転身している鮎川だが、今回、特別に「必殺のことなら」と応じてくれた。それは、番外編を含めて10年以上を共に過ごした「加代」への恩義である。
「必殺」のシリーズは、恨みを残して死にゆく者が、頼み料とともに「仕事」を託す。仕事人たちが集まる場を加代が仕切るんですが、ここは性格が出ますね。
「あんな女の子が殺されて金なんかもらえねえ!」
そう言うのは秀が多かった。秀は殺される女の子と心を通わせる場面も多かったですから。
これをいさめるのが加代の役目でしたね。
「受けたよ。仕事なんだから、しっかりおし!」
とにかく金を稼ぐ、いつでも親指と人さし指で「金ちょうだい」のポーズを取っている加代のキャラを徹底させていました。
そして、それぞれが「仕事」の見せ場に向かって行きます。最後は必ず、中村主水が口上をつぶやく。
〈人生50年‥‥てめえは2つ生きすぎた〉
〈おめえにはもう一度転職してもらうぜ。こんどは閻魔の草履番だ〉
そして、みごとな太刀さばきで大物をしとめます。
撮影は夜までかかることも多かったし、ドラマだけじゃなくて映画や舞台もありました。一年中が「必殺」に追われているようなスケジュールでしたけど、あれほど斬新で、あれほど愛された時代劇に出させてもらったことは、引退した今も忘れられません。