時代劇に革命を起こした「必殺シリーズ」(ABC系)は、忘れがたいキャラクターの宝庫だった。とりわけ、中条きよし(71)が「三味線屋の勇次」として登場すると、その人気は決定的なものとなった。
── 1000人アンケート(週刊アサヒ芸能9月7日号掲載)でも、「水戸黄門」などの並みいる強豪を抑えて「必殺仕事人」が1位に選出されています。
中条 それぞれのバランスがよかったんでしょうね。昼行灯と呼ばれながら凄腕の中村主水(藤田まこと)、何でも屋の加代(鮎川いずみ)、そして飾り職人の秀(三田村邦彦)もいた。
── ここに「新・必殺仕事人」(81~82年)から「三味線屋の勇次」が登場。シリーズの人気が、さらに爆発しました。
中条 その年のスペシャル版にゲストで出ていて、仕事人役のフランキー堺さんに太い縄で吊られて死ぬという役。それから堺さんがプロデューサーの山内久司を連れて、僕が歌っているクラブに来てくれた。堺さんがすごく推してくれたこともあって、その後の役者人生が変わる「勇次」に巡り会えたんです。
── 勇次は血縁こそないものの、おりく(山田五十鈴)を「おっ母さん」と慕う役。ともに、仕事人としても三味線の使い手です。
中条 おりくさんは、三味線のバチを使って相手を斬る。じゃあ、勇次はどうするか? 三味線の竿に刀を仕込むというのもあるだろうけど、ここは「糸」を、それもいちばん細い「三の糸」を使ったほうがいいと。
── あえて「三の糸」にこだわったのは?
中条 シリーズのコンセプトに「通りすがりに横でズブッと切られる恐怖」というのがあって、それと同じく、細い糸が飛んできて殺されたら怖いだろうと。
── 必殺シリーズには、念仏の鉄(山崎努)の「骨はずし」や、大吉(近藤洋介)の「心臓つかみ」など、人知を超えた殺し技も多数。それでも、三味線の糸を使った吊り技こそが、最も現実離れしているように思えますが。
中条 横に投げた糸が、どうすれば鴨居の上に曲がって飛ぶんだって(笑)。まあ、そう考えたらできないね。
── 糸を口でツツーと引っ張るのは、独特の色香を感じました。
中条 最初は普通に指で輪を作っていたんですよ。それが14話で、屋形船のシーンで片手がふさがっていた。それならばと口でくわえてみたら「それだ! 絶対いいよ」と言われて。そういう偶然が重なり、ドラマはできていくんです。
── 必殺シリーズは光と影を駆使した映像美が際立っています。
中条 これは撮影の石原興と、照明の中島利男という二人の偉大な功績。勇次は殺しに行く前に障子のすき間に立って、目線を行かせるわけですよ。そこだけ照明を当てて陰と陽が鮮やかな映像になり、どの場面を静止画にしても絵になっていた。照明とカメラが力を発揮したことで、「必殺」がさらにドーンといった。
── 次の役作りに対してのこだわりは?
中条 三田村君は地毛を生かしているけど、勇次は羽二重のかつらをきちんと着けている。ただし、殺しに行く時だけ「色シケ」と言って、左右の髪を2本だけ垂らす。これも石原や中島と話すうちに、これがいちばんいいだろうということで。
── そして印象的な「劇伴」は、デビュー曲「うそ」を大ヒットさせた平尾昌晃という恩師でした。
中条 今でも僕に勇次のイメージが強いのは、平尾先生のテーマ曲も大きい。あの「♪チャララ~ン」が流れると、イコール必殺になりますから。まだまだ活躍していただきたかったです。