家庭用のビデオデッキが普及し、AVの誕生もあって「1人の部屋で楽しむ」という選択肢が生まれた80年代。それでも、真の女優はスクリーンに肢体を投げ出し、劇場の観客を魅了することに心血をそそいだ。そんな激動の時代に生きた女優たちの、炎のような情熱を再現してみたい――。
ビートたけしも唸った女優魂
「ここでレイプされるってことは、下着の跡は残したほうがいいですか?
見えないほうがいいなら、下着をつけないで待っていますけど」
川上麻衣子(46)は、これが監督第1作となる北野武に言った。当初のシナリオでは川上が全裸になり、壮絶なレイプシーンの予定だった。
「すげえな。女優が脱ぐっていうのは、そこまで神経を遣うものなのか‥‥」
川上の問いかけに、北野武は感動し、また打ちのめされる。そのため、川上のレイプシーンは残しつつも、服は脱がなくていいように配慮した。ビートたけしが〈世界のキタノ〉に駆け上がるきっかけとなった「その男、凶暴につき」(89年、松竹富士)の1コマである。
川上が同作品でたけし扮する我妻刑事の妹・灯を演じたのは、いくつもの偶然が作用した。もともとは深作欣二が監督のはずだったが、スケジュール調整ができずに降板。主演のたけしが監督を兼ねることで、かねてより共演の多かった川上にオファーした。
「ただ、あまりにも壮絶なレイプシーンだったので、お断りする口実として『このくらいのギャラをくれるなら』って言ったんですよ。ところが、その金額でOKが出たもので、引き受けざるを得なくなったんです」
そう言ってほほえむ姿は、セーラー服に身を包んだ「3年B組金八先生2」(80年/TBS)から30年以上が過ぎたとは思えぬほど若々しい。つい先日、「週刊ポスト」誌の「著名人が愛した熟女ランキング」で、黒木瞳や五月みどりと伍して、堂々の6位に選出された。今風の言葉で“ロリ熟女”の人気は絶大である。
再び「その男──」に話を戻すと、組織の手によってシャブ中毒にされた灯に、兄の我妻みずから銃の引き金を弾く。本来の脚本にはなかったが、たけしのアイデアによって屈指のシーンに仕上がった。
そんな川上が映画で存在感を発揮したのは、初主演作「うれしはずかし物語」(88年/にっかつ)が最初だ。ジョージ秋山の人気コミックを原作に、数々の女性映画をヒットさせてきた東陽一がメガホンを執った。東と川上は新宿の「滝沢」という喫茶店で、2時間以上も押し問答を繰り返している。
「成人指定の映画に出るつもりはなかったし、脚本を読んでもセックス場面がほとんど。なので、お受けできませんって東監督には告げたのですが、どうしてもやってほしいと‥‥」
川上は、40代の中年男・三国(寺田農)と愛人関係になる不思議少女・チャコの役。ただ、決心がつかない川上は、東に「30分だけ1人になりたい」と告げ、喫茶店を飛び出した。向かった先は、すぐ近くのパチンコ屋だった。
「気分転換として500円玉1枚だけ入れてみよう‥‥。そしたら、それで大連チャンしちゃったんです。監督を30分どころじゃないくらい待たせたほど(笑)。打っているうちに、この大当たりが映画をやらなくちゃいけないんだという気にさせられました」
当たり景品の紙袋をいくつも抱え、川上は喫茶店で待つ東に「やります」と告げた。22歳初主演作は、こうしてスタートを切った。