20代にして人口2400万人の国、北朝鮮のトップに座った金正恩氏。祖父や父が残した教えを守ることで正統な指導者であることをアピールしたいところだが、それだけでは民衆が満足しない。外に敵を作って過激な路線に打って出れば、自滅する危険性も増す。はたして、若き独裁者は自国をどうやって生き延びさせようというのか。
「ブタ」呼ばわりされた金親子
5月に入っても、北朝鮮が核実験を行うのではないかとの観測が消えない。
「金正恩第一書記がゴーサインさえ出せば、いつでも実験が行える状態にある」(韓国紙記者)
北朝鮮は4月13日に「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイルの打ち上げに失敗している。その名誉挽回ということなのだろう。
もし核実験に踏み切れば、就任したばかりの若い指導者に国際的な批判が集中することは火を見るより明らかだ。特に北朝鮮と国境を接している中国は、
「核実験による放射能汚染を心配している」(中朝外交筋)
といい、水面下で実験中止を求めている。
4月下旬、北京を訪問した朝鮮労働党の幹部と会った胡錦濤国家主席も、かなり厳しい調子で、核実験をしないよう申し入れたと伝えられている。
中国は、北朝鮮向けの石油輸出の停止もちらつかせている。北朝鮮が中国から輸入している石油は、毎年50万トン程度。石油は分離・精製して火力発電所で使うほか、軍用としても欠かせない必需品だ。
国際的に孤立している北朝鮮は、他国からの輸入は見込めないので、一時的にせよ石油がストップすれば、かなりの痛手になる。だから普通なら実験を見送るはずだが、そうはいかない事情もある。周囲のプレッシャーに負けて核実験ができなかった場合、国内から「弱腰指導者」というレッテルを貼られ、反発が噴き出してくる可能性があるからだ。
三代目の世襲者である正恩氏に対しては、指導者として正式に就任する前から露骨に批判する声が強かった。
米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)は、正恩氏が後継者に「内定」した10年9月以降、北朝鮮住民の間で批判の声が強まっており、当局が取締りを強化している、と伝えた。
反体制ムードが強い北朝鮮北部の咸鏡北道(ハムギョンプクト)、清津(チョンジン)市では、「子ブタも親ブタも食べてしまおう」との落書きが発見され、大騒ぎになったことがある。
ブタは故・金正日総書記と正恩氏を指している。韓国の脱北者支援団体「被拉脱北人権連帯」の都ト・ヒユン希侖代表は、
「清津市内にある製鉄所で発見されたビラには『金正恩体制では北朝鮮の未来がない』といった反体制的な内容が書かれていた」
と語っている。
このため当局は、ビラをまいた人間を密告した場合、豪華な賞品をプレゼント。特に熱心な清津市住民5人にはカラーテレビが贈られ、8人に10万ウォン以上の賞金が与えられたという。