集められた拉致被害者30人
だが長期的に経済改革を目指すにしても、短期的にはどう生き残りを図るのか。
それは簡単ではない。経済支援の頼みである韓国は、「支援には北朝鮮の核放棄が先」とする李明博(イ・ミョンバク)大統領が強硬姿勢を崩さない。
韓国では今年12月に大統領選挙が行われる予定だが、大きな政策の変化は望みにくい。そもそも韓国では北朝鮮問題への関心は薄く、争点になりにくいのだ。
アメリカからは今年2月末、核開発や長距離ミサイルの発射一時停止を条件に、食料支援を取り付けた。しかし4月13日のミサイル発射にアメリカが反発、約束は反故になっている。オバマ大統領も、打ち上げ失敗後、「挑発に見返りはない」「挑発的な行為を続けるのであれば、国際社会に戻ることはできない」などと積極的に「口撃」。当面、交渉のテーブルにはつかない姿勢だ。となれば、援助を受けられるのは日本しかない。事実、北朝鮮は動き始めている。
日本と北朝鮮の関係は、日本人拉致問題や核問題がこじれており、公式協議は08年以来、開かれていない。昨年夏からは、中井洽元拉致問題担当相らと北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)日朝国交正常化交渉担当大使が、中国で非公式な接触を4回行っている。
50年前に在日朝鮮人の夫とともに北朝鮮に渡った日本人妻たちの帰国や、終戦の混乱により北朝鮮で亡くなった人の遺骨返還問題などが話し合われているもようだ。拉致については、北朝鮮はすでに、国内にいる被害者の再調査をひそかに行っている。現地の情報関係者によると、
「さまざまな形で拉致された被害者が30人ほど把握され、特定の場所に集められている」
日本との交渉再開に備えた動きだろう。
拉致問題よりも先に動きそうなのは、遺骨返還問題だ。日本人が多く住み、墓地もある清津を訪問するため、遺族たちが今、北朝鮮当局に訪朝を申請している。日本政府は北朝鮮に経済制裁を科しているため、積極的に後押しできないが、黙認する姿勢だ。
宋日昊大使は最近、平壌を訪問した日本からの代表団に対し、
「遺骨返還は人道問題であり、個人であれ団体であれ、受け入れる」
と語っている。
北朝鮮の目的は、日本の経済制裁緩和と戦後賠償だ。日本は北朝鮮が国交正常化に応じて平和条約を結べば、かつて韓国に行ったように、何らかの経済支援が必要となる。その額は「現在のレートに直すと、1兆円になる」(日韓外交筋)とされ、利権は大きい。
内部対立の危険をはらみつつ、日本に接近する北朝鮮。正恩氏にとって危ない綱渡りが続く。
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