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昨年11月15日、天龍源一郎(66)は引退試合で、当時、新日本プロレスでIWGPのチャンピオンだったオカダ・カズチカ(28)と両国国技館で対戦した。歴史に刻まれた名勝負のあと、記者会見場に現れた天龍は、机の前に並んだぬるくなったビールを手に取り、満面の笑みでうまそうに飲み干した。その様子を見ていた三田氏の脳裏に、天龍との思い出がよみがえった。
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10年以上前、天龍さんにインタビューする機会があったんです。ジャイアント馬場とアントニオ猪木から唯一フォールを取った男として知られ、冒頭でその話題に触れようとしたら、緊張して、「ジャイアント猪木さん」と言ってしまったんです。そしたら急に笑いだして、取材の場が和やかになりましたね。今でも会うと、
「元気か、ジャイアント猪木さん!」
と声をかけてくれます。その縁もあって、スカパーのイベントにも出席してくださいました。その時、会場に置いてあったアニメチャンネルのパンフレットの表紙に描かれた「トムとジェリー」を見つけると、顔がとたんにほころんだんです。
「長州力と藤波辰爾が名勝負数え唄って言われているけど、最高の名勝負数え唄は、トムとジェリーだよな」
と言いだし、その理由を尋ねると、
「これで決着すると思ったら、新しい展開が待っていて、トムとジェリーの戦いは一向に終わらないだろ。すごく勉強になるんだよ」
と教えてくれたんです。トップレスラーの天龍さんが、アニメをご覧になっていたなんて驚きました。
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13年に引退した小橋建太(49)も忘れられないプロレスラーの一人だ。
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私より年上なのですが、いつも真顔で、
「ミタちゃんは、俺と同級生だよな」
と言うんです。最近はNOAHの会場で会う機会もあるのですが、「桃の青春」というタッグチームの対戦相手が、「30歳を過ぎて青春なんて言っていてダサい」とバカにする発言をしたんです。その時に解説をしていたのが、現役時代に「何歳になっても青春」をテーマにしていた小橋さん。明らかに怒っているのがわかりました。試合後、私の姿を見つけるなり、
「青春は年齢じゃないよね、そう思うだろ。ミタちゃんなんて50歳でも青春を送っているのに」
と、いつの間にか、小橋さんより年上にされていたんです。後輩レスラーに怒る前に、いいかげん年下だと覚えてほしいです(笑)。
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プロレスの仕事に携わってから20年がたち、今でも年間120大会以上を観戦・取材している三田氏。いつの時代でも、トップレスラーが身を引くと、次の世代から必ずスターが誕生するからプロレスはおもしろいと三田氏は言う。
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寂しい話ですが(笑)、これまでレスラーの方と浮いた話が一つもありませんでした。だからこそ、良好な関係で取材を続けられたのかもしれません。今のプロレス人気を「ブーム」で終わらせないように、魅力をわかりやすく、提供していければと思います。