現場に残された陰毛に着目
6月16日、ゴビンダ元被告は18年ぶりに祖国ネパールの地を踏んだ。6月7日の再審開始決定を受けて、無期懲役刑は執行停止となり、釈放されての帰国となった。いや、正確には強制退去処分である。この後、再審では無罪判決が下されることだろう。
再審開始決定の決め手となったのは、DNA鑑定だった。再鑑定の結果、被害者の体内に残されていた精液が、ゴビンダ元被告とは別人のものであることが判明したのだ。
これは事件当時から判明していた事実でもあった。ゴビンダ元被告の血液型はB型であり、体内に残されていたのは、O型の精液であったのだ。
一方で、ゴビンダ元被告の有罪を確定させたのも精液であった。現場に残されていた使用済みコンドームにゴビンダ元被告の精液が残されていた。これは、被害者と現場で性行為をした証拠でもあった。そして、ゴビンダ元被告も、検察側が主張していた日付とは異なっていたが、被害者と現場で性行為に及んだことを認めていた。
しかし、私が調査を開始した04年の時点で、有罪を確定した根拠は揺らいでいた。弁護団は裁判の中でも、被害者の遺留品であるショルダーバッグに残された皮膚痕のDNA鑑定を求めていた。それも検察側が拒否するなど、杜撰な捜査を隠すかのようにも感じた。
さらに、現場の室内に残されていた陰毛は16本あった。その中に、ゴビンダ元被告や被害者の陰毛も含まれていたが、まったく他人の陰毛2本が含まれていた。これについては検察は解明していなかった。
私が調査開始時点で、ゴビンダ元被告の冤罪の可能性を感じたのは、この他人の陰毛の存在だった。うち1本は血液型がO型の陰毛であった。そして、今回の再鑑定では、被害者の体内にあった精液と陰毛のDNA型が一致したのだ。
つまり、弁護団は一貫して「第三者の存在」を解き明かそうとしていた。そして、「支える会」から私への依頼は、まさに「第三者」に繋がる証言集めだった。それは、端的に言えば「真犯人」を見つけ出す作業でもあった。
私は科学者でも刑事でもない。当然、科学的な捜査などできるわけもない。周辺住民の記憶を呼び覚ますように、話を聞いて回るしかない。
そして、私は冒頭に触れた包丁の男が「真犯人」なのではないかと思えてくる事実に突き当たるのだ。