今年3月、その名も「国士舘物語」という小説が発売され、話題になった。そしてこの夏には、「国士舘」を舞台にした映画が上映。相撲や柔道の強豪校として知られた“武闘派”の学校が、今なぜそんな盛り上がりを見せるのか。そこには若者を魅了し、中年を懐かしがらせる濃密な「青春の傷あと」があったからである。
「まさに艱難辛苦(かんなんしんく)で完成した作品。ともに“修羅場”を経験してきた国士舘生OBの絆にあらためて感謝するばかりです」
そう感慨深げに語るのは、8月初旬に公開された映画「國士参上!!昭和最強高校伝」を製作した高瀬将嗣監督である。断っておくと、この作品は現在のネトウヨに代表される「ヘイト活動」とは一線を画している。あくまで昭和50年代の最も熱かった「国士舘高校」(東京・世田谷区)に通う若者たちを描いた青春群像劇である。ケンカに明け暮れる“武闘派”学校の名前は、全国の猛者たちを震え上がらせた。まず、東京で単館上映されたのだが、
「タイトルからして男臭いし、製作側としても、当時を知る往年のファンをターゲットにした作品だったようですが、蓋を開けてみると、客席の6割が若い女性。学園不良モノの根強い人気に、関係者も驚いていました」(映画記者)
高瀬監督は映画「ビーパップ・ハイスクール」やドラマ「あぶない刑事」などでアクション指導を手がけ、映画「新・日本の首領」シリーズなどでは監督を務める、不良&任侠系映画のオーソリティ。「國士参上!!──」はいわば、映画「パッチギ!」を日本側から描いたような作品で、
「私自身が国士舘高校・大学の出身なんですが、5年ほど前に後輩から言われたんです。『パッチギ!』ではわが母校が『国土舘(こくどかん)』という名称で、実際とは相当かけ離れた描かれ方をした。OBとしては、敵役扱いされた我々にも言い分はあるというところを描いてほしい、と」
撮影に至るまでには、多くの苦難が立ちはだかった。その一つが「蛇腹」という学ランの問題である。
「当時の国士舘生のシンボルが『蛇腹』という制服で、入学式のシーンを撮影するためには最低でも30着は必要でした。ところが、昔は山ほどあった学生服専門のテーラーが今や壊滅状態で、ようやく探し出した店では1着8万~10万円だという。つまり、衣装代だけで300万円。頭を抱えましたね」
そんな高瀬監督の窮地を救ってくれたのが国士舘OBだったという。
「OBたちが声をかけ合って『自分、現役時代の制服持っています!』『自分も!』『自分も!』と。で、あっという間に30着が集まった。しかも、どれも30年、40年前の制服とは思えないような、いい保存状態でね。みんなの心意気には本当に感動しました」
映画は「国士舘高校vs朝鮮高校」をモチーフにした「皇士館」と「高麗学園」両校の対立を軸にストーリーが展開していく。当時、国士舘と朝鮮高校(東京・北区)は敵対関係にあり、
「昭和48年6月には通勤ラッシュ時の新宿駅ホームで、両校の生徒40人が入り乱れて大乱闘事件を起こし、全国的なニュースになった。国士舘の右翼的教育が問題では、と国会で取り上げられました」(全国紙社会部デスク)
そして、両校の「抗争」は、日を追うごとに激化していったのである。