斉藤さんが急死した問題を受けて発足した日本相撲協会の「再発防止検討委員会」で外部委員を務めた漫画家のやくみつる氏は、こう言って憤る。
「そもそも重大な結果が発生したのに、暴行を加えた本人は犯意が薄いんですよ。そのため、時間の経過とともに記憶も薄れ、もう一度関わりたいと戻ってくるし、相撲界も受け入れてしまうんですよ。もし大変なことをしてしまったという罪の意識があれば相撲界には戻ってこないはずです」
時津風親方は記者と電話で話した際、「会って話をしよう」と提案。そこで再度、話を聞くべく、国技館へと向かった。先ほどの興奮状態からは落ち着いているように見える。
──親方、この件をことさらスキャンダラスに扱うつもりではなく、国技の倫理としての問題提起をしようと思っているのです。
「(うなずきながら)こちらも別に悪いことをやっているわけじゃないし、コソコソする必要はないんだ。何度も言うが、本人は反省もしている。『わんぱく相撲のコーチでもいいから』と言うので、お願いをしている。それもダメというなら、本人はどうやって生きていけばいいんだ。今日はこれから審判の仕事があるのでこれで失礼するよ」
元・時太山こと斉藤さんの父・斉藤真人氏は当時、名古屋地裁で判決が下ったあと、報道陣にこう語った。
「納得はしていないけれど、司法の判断に従いたい。兄弟子3人はこれからの長い人生を、人一人を殺したことを忘れずに生きてほしい」
そして実行犯の3人は、名古屋地裁の前で、
「やったことは取り返しがつかない。一生かけて償っていきたい」
と、神妙に語ったのである。
執行猶予が終了し、罪は償ったのだから、何をしても許されるのか。それとも、一定のルールはあるのか。相撲界ではどうやら、前者の意見のほうが強いようである。中沢氏は言う。
「相撲界の常識は、世間の非常識。そうした見方もなくはない。しかし、相撲界も世間の一部です。そのことを忘れるべきではないと思いますね」
時津風部屋は第35代横綱の双葉山が現役引退後に興した部屋。双葉山は年寄・時津風を襲名するとともに、時津風部屋に双葉山相撲道場と命名している。
その相撲の神様、双葉山が存命なら、この時津風部屋の現状をどう思ったことだろうか。