親方の指示で17歳の力士を「かわいがった」あげく、死に至らしめた「力士暴行死事件」。あの大相撲界最大級のスキャンダルから9年。「実行犯」がひそかに角界に復帰し、かつての所属部屋に出入りしていた。国技の倫理観はどうなっているのか──。
白鵬が休場し、鶴竜は連敗、日馬富士も3日目に土がつく。さらには、再度綱獲りに挑戦中の稀勢の里も初日、隠岐の海に敗れ、3日目には栃ノ心に不覚を取るなど、混戦の様相を呈する──。だが、そんな大相撲秋場所どころではない大荒れの事態が発覚した。
あの「力士暴行死事件」といえば、まだはっきりと記憶にある相撲ファンは多いだろう。その「実行犯」がなんと、相撲界に舞い戻っていたのである。事件は07年6月25日から26日にかけて発生した。相撲記者が振り返る。
「この年の春、新弟子として時津風部屋に入門した当時17歳の時太山こと斉藤俊さんが愛知県犬山市の部屋の宿舎で稽古時間中に心肺停止状態となり、搬送先の犬山中央病院で死亡が確認されました。愛知県警犬山署は虚血性心疾患と発表したのですが、実は斉藤さんは稽古についていけずに、脱走を繰り返すなどしていた。激怒した当時の時津風親方がまずビール瓶で斉藤さんの額を殴り、3人の兄弟子に『かわいがってやれ』と、集団リンチを指示したのです。そして翌日も、通常5分のぶつかり稽古を30分も行い、斉藤さんが倒れたあとも蹴りを入れたり、金属バットでブン殴ったりしました」
兄弟子たちが気づいた時には、すでに斉藤さんは冷たくなっていたという。
前・時津風親方と実行犯の力士3人は犬山署に傷害致死容疑で逮捕された。裁判では、暴行を指示した前親方が懲役5年の実刑判決を受け、三重刑務所で服役。兄弟子の(当時の四股名)怒濤、明義豊の2被告に懲役3年、時王丸は懲役2年6月と、3人全員にそれぞれ執行猶予5年の有罪判決が言い渡された。前親方と斉藤さんの兄弟子3人は、相撲協会を解雇されている。
判決文では「(実行犯の)弟子が親方の指示に逆らうことがきわめて困難なことは、複数の相撲部屋関係者も口をそろえている。犯行は山本被告(前・時津風親方の本名)の指示で行われた」と、執行猶予をつけた理由を述べている。これを受けて、当時の武蔵川理事長も「3人をこれからも見守ってほしい」と報道陣に語っていた。
愛煙家だった前・時津風親方は服役中に刑務所内で体調を崩し、肺ガンと診断されて三重県内の病院に入院。その後、都内の病院に移ったが、14年8月に死去している。
その実行犯の一人、元怒濤のI氏について、
「今、時津風部屋に出入りしているんですよ」
と明かすのは、角界OBである。
「現・時津風親方の小学生の息子が、わんぱく相撲のクラブに入っているのですが、I氏はその息子の個人コーチを引き受けているのです」
小学生が所属する相撲クラブには、力士を目指して稽古に励む子供が多いという。