経済アナリスト・森永卓郎氏の著書「年収300万円時代を生き抜く経済学」がベストセラーになったのは03年。その後、低所得者のノウハウ本は年々、「年収200万円からの貯金生活宣言」(横山光昭・著/09年)、「年収150万円で僕らは自由に生きていく」(イケダハヤト・著/12年)と「設定年収」が低下。ついには今年7月、「年収90万円で東京ハッピーライフ」(大原扁理・著/太田出版)なるものが出版された。
アベノミクスは形骸化し、日本経済が長期にわたって低迷。庶民の年収は低下の一途をたどる中、驚くことに、この年収90万円生活を指南する本が大ベストセラーとなっている。
著者の大原氏は愛知県出身の31歳。7年前に上京し、東京・多摩市の家賃2万8000円のアパートで「隠居生活」を満喫しているという‥‥と思ったら、
「実は数週間ほど前から台湾に移り住み、新たな『隠居生活』を始めたようなんです」(担当編集者)
そこで、台湾の大原氏を直撃。超低所得の「ハッピーライフ」について聞いてみることにした。
大原氏は高校を卒業後、進学も就職もせず、生活費を稼ぐアルバイト以外は「ほぼ引きこもりの生活をしていた」と言うが、そんな生活が3年目に突入。皮肉なことに、まったく金を使わなかったため、手元に100万円の貯金ができた。そこで、世界一周の航空券を購入する。
「ニューヨークやロンドンなど、訪ねた先々に住み着いて本を読みあさったり、金がなくなるとテキトーに仕事したり。でも帰国後、再び引きこもり生活に戻ってしまったので、とりあえず実家を出て東京に引っ越そうと思ったんです」
最初に住んだシェアハウスは家賃7万円。生活費を捻出するためアルバイトを3つ掛け持ちし、どんどん心に余裕がなくなっていく。ふと「自分は何のために東京に出てきたのか」という疑問が頭をよぎった大原氏はバイトを全て辞め、生活の拠点を郊外の多摩市に移した。そして週2回の介護の仕事で得られる月収7万円でスタートさせたライフスタイルが、「普通に就職して稼ぐことから意識的に距離を置いて、自分が快適だと感じる暮らしをするために、最低限必要なお金を得る分しか働かない」という「隠居生活」だったのだ。
まず、朝6時から7時に起床。ラジオ体操のあと、白湯を飲むことから1日が始まる。そのあと、日光の当たる場所でみずからを天日干し。手帳を見ながら何の予定も誰からの誘いもないことを確認し、「本を読む」「盛り塩を取り換える」といったリストを作り、簡単な朝食を済ませると、自由行動。介護の仕事がある週2日以外は、大半を図書館で本を読んだり、散歩して過ごす。ちなみに、部屋にテレビはなく、情報はネットにつなげたパソコンやラジオから得るという。
「図書館はタダで何万冊という本が読める。こんなにありがたいサービスはありません」