「トランプ・ショック」の日本への余波は、TPPや日米の防衛問題だけにとどまらない。メジャーリーグへの影響を経て、プロ球界にまで波及する可能性が現実味を帯びてきたのである。
アメリカの野球に詳しい関係者が言う。
「メジャーには二つの影響が出ると言われています。一つはメキシコやカナダに球団を増やす拡張路線のストップ。もう一つはベネズエラ、ドミニカ、キューバなどラテン系、ヒスパニック系外国人選手のプレー環境が厳しくなること。ビザ発給や課税などで圧力をかけられ、国交を開いたキューバとの関係性もどうなるかわかりません。メジャーでプレーするキューバ人のほとんどが亡命選手なので、なおさら締めつけが厳しくなるかもしれません」
メジャーのコミッショナーは球団拡張路線を考えていたが、「メキシコ国境に壁を作る」と選挙公約するほどトランプ氏が厳しい移民政策をとる可能性が高いため、隣国との関係は悪化し、とても拡張どころではなくなる。さらに、現在のメジャーの主力を占めるヒスパニック系選手の活躍の場にも制限がかけられることも。前出のアメリカの野球に詳しい関係者によれば、
「そんなトランプ氏がいるアメリカでプレーすることを嫌がるヒスパニックの大物が日本に逃げてくる可能性が出てきますね。今もドミニカ出身の選手が、異文化対応の柔軟性と身体能力の高さで日本で人気になっていますが、びっくりするような大物が日本を選ぶことになればおもしろい。潤沢な資金力のソフトバンク・孫正義オーナー(59)は前々から『超大物を連れてきなさい』と号令をかけているし、楽天の三木谷浩史オーナー(51)も同じ考えで、オーナー会議では外国人枠撤廃まで主張していますからね」
過去、ソフトバンクがアレックス・ロドリゲスの獲得に動いたことがあった。そのソフトバンクや、「最高の野球をファンにお見せしなければならない」が持論の三木谷オーナーが、大金をはたいて超大物を引っ張ってくるかもしれない。
今オフのラテン、ヒスパニック系の超大物FAは、キューバから亡命後5年で137本塁打のヨエニス・セスペデス(メッツ)、今季の打点王エドウィン・エンカーナシオン(ブルージェイズ)、ウィルソン・ラモス(ナショナルズ)らがあがる。メジャー関係者が語る。
「こうした超大物が動くのは難しいが、今季30発のケンドリス・モラレス(ロイヤルズ)、22発のペドロ・アルバレス(オリオールズ)くらいなら、1年10億円から15億円も出せば呼べる」
さて、トランプ当選と同時に急速な円安ドル高が進んだが、一部の経済学者は今後は「円高ドル安の方向へ進む」と予測。日本人メジャーリーガーの契約はドル建てなので、円高が激しくなると為替レートで損失を受ける。
来年オフにも、日本ハム・大谷翔平(22)のメジャーへのポスティング移籍が見込まれており、10年総額3億ドル(約300億円)の巨額契約が用意されるとまで言われているが、為替レートが5円違えば約15億円も大損をすることになる。ポスティング金額も現状は上限2000万ドル(約20億円)だが、円高が進めば日本ハムも億単位の損失を受けるかもしれないのだ。
24年の五輪や26年のW杯招致レースでもアメリカ不利の予想があるが、トランプ氏の外交政策が過激になれば国境を越える国際スポーツがアメリカで開かれる可能性も小さくなる。危惧されるのはWBCだ。スポーツライターが懸念する。
「メキシコやドミニカ、プエルトリコが参加を見送るかもしれない。これまでWBCは準決勝、決勝をアメリカで開催してきたが、アメリカにとってWBCを行うメリットはなくなり、消滅する危険性があります」
侍ジャパンにとっても、目標が消えてしまう事態になるのだ。