放射線治療が専門のガン治療医が明かす。
「粒子線治療は『体深部で線量のピークが来る』がウリで、確かに体深部にあるガンを効果的に叩くことができる。しかし対費用効果を考えると、まったくオススメできません。実は同程度の治療効果は、一般に普及している完全保険適用のリニアック(放射線治療装置)でも十分に得られます。しかも粒子線は殺細胞効果がありすぎるため、照射した患部が溶けて体に穴が開いてしまうなど、治療に伴う危険性も非常に大きい。ハッキリ言って、粒子線治療など必要ありません」
この医師によれば、リニアックを使った治療は日進月歩しており、例えば多方向から放射線を照射することで、粒子線治療と同程度の治療効果を上げることができるという。しかも治療に要する費用も、1回の照射につき3000円から6000円(3割負担の場合)と安上がりなのだ。
意外な落とし穴もある。国が指定する先進医療は混合診療の適用外とされているが、指定医療機関以外で治療を受けてしまうと、それまでに受けた保険適用診療の全額(保険が負担していた全額)の返還を求められる場合がある。
そればかりか、指定先進医療以外の自由診療を受けた場合も後日、国から返還を求められて唖然、という事態になりかねないのだ。
ガン患者を食い物にする○○療法の類は巷に溢れている。しかし治療の効果は実に怪しく、多額のカネを巻き上げられた末に、お上から返還請求されたのでは、まさに泣きっ面に蜂だ。
安上がりといえば、手術後の経過観察も意外に知られていないポイントである。
他臓器への転移がなく、手術もうまくいくと、術後サーベイランスが始まる。サーベイランスは「監視」の意で、手術からおおむね5年間(乳ガンの場合は実に10年以上)、各種の検査を受けなければならない。
病院や医師によっても違うが、私(大腸ガン)を例にとると、術後3年間は3カ月ごとの血液検査、半年ごとのCT検査と大腸内視鏡検査などを受けさせられる。3年目以降は後者が年1回へと減るが、その費用がバカにならないのだ。
実際、血液検査と診察だけでも、1回につき3500円程度、CT検査と大腸内視鏡検査の場合は1回につき1万円以上(いずれも3割負担の場合)もかかってしまう。これに薬代や交通費を加えると、年間5万円を超える出費になるのだ。
しかも、問題は費用だけではない。あるガン専門医も、こう漏らしている。
「肺ガンなどの固形ガンの場合、再発したら治りません。したがって、再発を早く見つけることにどれくらいの意味があるのか、という問題がまずあります。事実、ガンの種類別に作成されている治療ガイドラインでも、術後のサーベイランスにさしたるエビデンス(科学的根拠)はない、とされているんですよ」
にもかかわらず、術後サーベイランスが行われているのは、病院側の財布の都合によるもの。要するに、手間のわりには儲けの少ない手術だけで患者に逃げられてしまったのでは商売にならないからだというのだ。
森省歩(ジャーナリスト)