私たちが小さかった頃と比べて、ものすごく減っている病気。それも「患者が少ない」「経営できない」と医者が嘆くほどの症状をご存じでしょうか。
正解は「虫歯」です。40年ほど前は「虫歯にならない子供」は珍しく、70年代など子供の9割が虫歯でした。それが今や、お菓子を食べさせない親が増え、虫歯に対する親の予防意識も高まりました。加えてフッ素入り歯磨きの普及や学校検診も増えたことで「虫歯になる子供」は小学生の数割だといいます。
きちんと歯磨きをしていれば撲滅できるとさえ言われるのが虫歯です。
ただでさえ少子化だというのに虫歯の子供が減り、反比例するように歯医者は増えました。
歯科医院の数はコンビニより多いのですから、潰れる歯医者が出るのも当然で、今や歯医者の年収は300万円に満たないと言われてもいます。
さて、ここでお題です。もしも大人が虫歯にかかった場合、抜くべきでしょうか、抜かずにおくべきでしょうか。
虫歯には治療法がなく、虫歯の個所を削るしかありません。削れば削るほど、いずれ歯そのものはなくなりますが、わずかな根っこでも残しておくと、何かの役に立ちます。
もちろん虫歯自体は治さねばなりませんが、抜くのはギリギリまで待ってください。
歯の根っこが化膿して歯根膜炎や歯髄炎を起こせば別ですが、単なる虫歯なら、根っこの上にかぶせ物を入れるなど、次の治療に役立ちます。抜いた場合、残された隣の歯が支えを失って倒れたり、かみ合わせが悪くなって口全体のバランスにも影響を及ぼします。
抜くのはいつでもできますので、残せるなら残すのが正解となります。
すぐに歯を抜きたがる歯科医がいたら、「治療費目当て」というケースが考えられます。というのも、抜歯自体は大してお金にならず、保険点数もわずかでタダ同然の料金ですが、そのあとのインプラント(チタン製の人工歯根を埋め入れる治療)やブリッジ(抜歯後に歯を入れて左右の歯と橋のようにつなげる療法)は、高額な治療費を請求できます。ただでさえ生活に窮する歯医者が増えており、こうした治療を勧める歯科医は少なくありません。
インプラント自体は技術的にすばらしい発明です。入れ歯のように臭くならないので、薬剤で洗う必要もありません。ただし、歯茎の骨は非常に狭くて薄いので、下手な歯科医がやると抜けたりします。失敗した場合は骨までダメになるため、別の骨を移植して元どおりにする、その間、1年ほどかかるなど、大変な症状を招きかねません。
また、保険がきかないので高額な治療費(10万円から200万円)ともなります。中には「言い値」であることもあり、高ければいいというものでもありません。治療期間も最低3カ月かかるなど、根気も必要となります。
その腕前には天と地ほどの差がありますので、インプラント治療だけは、上手な歯科医にやってもらうことが肝要です。
今や歯医者にかかる大人のほとんどが歯周病です。歯周病とは、細菌感染により引き起こされる炎症性疾患で、歯と歯肉の間にたまった細菌が炎症を起こして歯茎が腫れる症状です。予防には正しく歯磨きをして、歯肉の中にある歯石を取り除くこと。歯周病が原因で歯を抜き、インプラントやブリッジをするのは最後の手段です。
歯は極力抜かない、と覚えておいてください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。