エンタメ

早世のマドンナたち⑥ 太地喜和子 親友カルーセル麻紀が見た水没死直前の予兆(5)

“見えない何か”に怯えていた

 柳町は撮影の合間に、共演者の安岡力也と「心霊談義」に高じる喜和子の姿を何度も見ている。

「おい喜和子‥‥連れて来たな?」

「うん、私の周りにいるよ」

 もともと持っている霊感の強さに加え、今で言う「パワースポット」の熊野の磁場が、より尖鋭的な能力にさせてしまったようだ。

 柳町は、後に聞く喜和子の訃報にも作品との「奇縁」を感じた。監督の前ではおくびにも出さないが、メイクなどのスタッフには小声で漏らしていた。「あの映画には小舟の上だったり、川のふちだったり、水にまつわる描写が多い。本人は女優根性で乗り切ったけど、何度も『水が怖い』と口にしていた」

 もともとが泳げない体質とはいえ、その怖おそれ方は、“見えない何か”におびえているかのようだった‥‥。ただ、こうした部分をのぞけば、柳町にとっては実に頼もしい女優だった。

「久しぶりの映画の主役ということで張り切っていたし、責任感も強く持っていた。一部でわがままって評判もあったけど、現場ではそつなくまとめてくれたし、キャンペーンにも協力してくれましたよ」

 完成した作品は「毎日映画コンクール日本映画優秀賞」を取るなど、高い評価を得た。そして公開から7年後、柳町は偶然、熱海から伊東にかけて仲間とドライブに出かけた。

「伊東の街に『唐人お吉ものがたり』の看板が出ていました。あと2日で公演だったので、もし、その日にやっていれば喜和子さんの楽屋に挨拶に行ったのですが‥‥」

 直後にワイドショーで伊東での訃報を知り、何という偶然だろうかと思った。たまたま調べたら、実在したお吉の母親が「きわ」という名前だったことも知った──。

 喜和子にとっての最後の公演は「文学座」の主催だったが、そこには師である加藤武も同行していた。加藤は、お吉を妾にするアメリカの総領事・ハリス(役名はハルリス)に扮していた。

 思えば喜和子が俳優座を辞め、文学座に移籍してきた67年からの縁だったと加藤は回想する。

「翌年の『美しきものの伝説』という舞台だった。ここで喜和子は大正時代の演歌師として、バイオリンを奏でながら活弁調にセリフを言う。その口上──『須磨子は来るのか来ないのか、あとはこの場のお楽しみィ‥‥』を教えてあげたのが最初。喜和子はケラケラと笑って『それを私が言うんですか?』って聞くんだ。ヘンな女、ヘンな研究生だなと思ったよ」

 ただし、3年後に同作品が再演されると、喜和子はヒロインの伊藤野枝役に抜擢されている。その出世の早さは、大いに目を見張るものだった。

カテゴリー: エンタメ   タグ:   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    これから人気急上昇する旅行先は「カンボジア・シェムリアップ」コスパ抜群の現地事情

    2025年の旅行者の動向を予測した「トラベルトレンドレポート2025」を、世界の航空券やホテルなどを比較検索するスカイスキャナージャパン(東京都港区)が発表した。同社が保有する膨大な検索データと、日本人1000人を含む世界2万人を対象にした…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
長与千種がカミングアウト「恋愛禁止」を破ったクラッシュ・ギャルズ時代「夜のリング外試合」の相手
2
日本と同じ「ずんぐり体型」アルプス山脈地帯に潜む「ヨーロッパ版ツチノコ」は猛毒を吐く
3
沖縄・那覇「夜の観光産業」に「深刻異変」せんべろ居酒屋に駆逐されたホステスの嘆き
4
段ボール箱に「Ohtani」…メジャーリーグMVP発表前に「疑惑の写真」流出の「ダメだ、こりゃ!」
5
巨人が手ぐすね引いて待つ阪神FA大山悠輔が「ファン感謝デー」に登場する「強心臓」