リアル社会では許されないことも、スクリーンの中ではどんな毒婦も魅力的。映画ジャーナリスト・大高宏雄氏が新旧の傑作10本を選定する。
まず外せないのは京マチ子(92)の「牝犬」(51年、大映)ですね。戦後のグラマー女優の元祖たる京マチ子が、名優・志村喬を夢中にさせ、だけど自分は若い男に走ったことから刃傷沙汰になってしまう。
戦後の女優像を一変させたという点でも、彼女の功績は大です。
同じ大映の若尾文子(83)は、田宮二郎と共演の「『女の小箱』より 夫が見た」(64年)が傑作。田宮は企業の乗っ取り屋で、乗っ取られる側の会社の社員の夫人が若尾。田宮は若尾を利用して乗っ取りを進めるが、ここで若尾が突然言う。
「私を取るのか、会社を取るのか!」
結局、田宮は嫉妬した恋人(岸田今日子)によって絶命するが、こうした「男の死」があってこそ、魔性の女と言えるでしょう。
谷崎潤一郎原作の「痴人の愛」(67年、大映)では安田(現・大楠)道代(70)が光る。小沢昭一と田村正和の2人が、安田演じるナオミによって性のとりこになってゆく。安田はヌードではないが、全身から野性美が漂っていました。
日活では加賀まりこ(73)が小悪魔の魅力を発揮した「月曜日のユカ」(64年)でしょう。ユカ自身はピュアであるが、初老のパトロン(加藤武)も若い恋人(中尾彬)も、結局は振り回されて死に至る。男の死=魔性の女の条件に当てはまり、今なおリバイバルで人気の高い一篇ですね。
後期の大映には渥美マリ(66)と関根(現・高橋)恵子(61)がいた。渥美の主演第1作「いそぎんちゃく」(69年)は、魔性と言うより女のかわいらしさが強いが、関根のデビュー作「高校生ブルース」(70年)は衝撃的。
タイトルのままに女子高生ですが、同級生と関係を持ち妊娠をしてしまう。その事実から逃げようとする男に対し、関根は自分の腹を男に踏ませ「赤ちゃんをどうにかして!」と叫ぶ。
そして堕胎が終わると、さわやかな表情で再び高校の門をくぐって‥‥という結末です。
さて人気の横溝正史モノには、いろんな意味で魔性のヒロインが必要。小川真由美(77)が「八つ墓村」(77年、松竹)で萩原健一を相手に濡れ場を見せた森美也子役も、岩下志麻(76)が「悪霊島」(81年、角川春樹事務所)でオナニーまで演じた巴御寮人役も、それぞれの個性が際立つ。
新しいところでは「渇き。」(14年、ギャガ)の小松菜奈(20)が、まだ新人なのに役所広司と堂々と渡り合っていて、役柄同様に「これはバケモノだ」と感心させられた。
もう1人は大ヒット中の「君の名は。」でもメインの声優を務めた上白石萌音(もね)(18)の「溺れるナイフ」(16年、ギャガ)ですね。ごく普通の少女の役の中に、男を思い詰める屈折した怖さがあった。新たな時代の魔性像と呼べるかもしれません。