桜の花びらが舞う季節に、女たちも「旅立ちの決意」をする──。数ある濡れ場作品の中でも、女優にとって極限の覚悟が必要で、一瞬のきらめきを要求されるのが「初体験」の場面だろう。痛みも、悦びも、哀しみも、すべてを内包した日本映画の衝撃シーンをここに、選りすぐってお届けする。
父親の借金のカタに芸妓となった元バスガールの南野陽子(49)。初めて客を取るシーンで、白竜を相手に肌襦袢を脱がされ、腰巻1枚になる。92年公開の「寒椿」(東映)のハイライトシーンだ。
両腕で胸を隠しているが、手を払われ、80年代のトップアイドルのバストがあらわになる。さほど大きくはなく、いや、微乳と呼んで差し支えないが、あのナンノが一糸まとわぬ姿で、しかも初体験の場面まで演じたのは衝撃だった。
映画評論家の秋本鉄次氏は、公開直後に南野をインタビューした。失礼を承知で「脱いだわりに胸は大きくなかったが」と聞くと、南野は堂々と答えた。
「たしかに私の胸は小さいです。だけど、バージンなのに胸が大きかったら、はかなげな感じがしないと思います」
借金の代償で捧げた初モノには、微乳のほうがより似つかわしいと言わんばかりだ。
「みんな私から奪うだけや‥‥」
最後に南野がつぶやくセリフには、万感の思いが込められている。
この「寒椿」と同じ宮尾登美子原作で大ヒットしたのは、夏目雅子(享年27)の出世作「鬼龍院花子の生涯」(82年、東映)だ。
「あては鬼政の娘じゃき。なめたらいかんぜよ!」
流行語にもなったタンカだが、養父の鬼政(仲代達矢)は、夏目演じる松江を荒々しく抱こうとする。着物の裾が乱れ、太腿があらわになる。さらに鬼政は着物の合わせ目から手を差し入れ、乳房をせわしなく揉みながら一喝。
「情けと思え!」
女の情念を描かせたら随一の脚本家・高田宏治氏は、本作に込めた思いを明かす。
「土佐のコテコテのヤクザで、男尊女卑が強い土地柄。そのため、鬼政に手ごめにされようとしながら、必死に抵抗することで松江の意地が光った。夏目雅子にとって変わり目となった映画やったね」
高田氏は自身の作品で、かたせ梨乃(59)が初めて濡れ場に挑んだ「極道の妻たち」(86年、東映)も忘れられないと言う。失礼ながら当時29歳で、あれほど豊満な乳房を持つかたせがバージンには見えにくいが‥‥。
「シナリオにはっきり『処女』と書いてるわけやないけど、世良公則演じるヤクザと出会ったことで女になってゆく過程を描いた。極道やから惚れたんやない。キャッチコピーの『愛した男が極道だった』がすべてやね」(前出・高田氏)
銃弾を浴びて死んでゆく寸前、かたせの爆乳にむしゃぶりつく世良の演技は鬼気迫るものがあった。
そんなかたせが、よりストレートに“処女との決別”を見せたのが、初主演作の「肉体の門」(88年、東映)。東京大空襲で焼け出された少女役のかたせは、復員兵の男(渡瀬恒彦)から白飯をめぐんでもらう。
お礼に渡すものが何もないかたせは、渡瀬の前で白いブラウスのボタンを外し、お下げ髪のあどけなさとは不釣り合いの爆乳を、緊張に震えながら献上。3月14日に他界した渡瀬が、その乳房に優しく触れる味わい深い演技が印象的だった。
初主演作での奮闘は、名取裕子(59)の「序の舞」(84年、東映)もまた然り。女流画家に扮した名取は、師匠役の佐藤慶によって大人の階段を昇る。
ふとんの上で着物を脱がされ、手で隠していた胸も佐藤によって払いのけられ、その乳首にキスをされる。やがて、愛撫が十分になったところで佐藤はグイッと挿入する。
名取の目から一筋の涙がこぼれ、無事に“貫通”したことを証明。当時27歳の名取の肌も、ピンクの乳首も、極上の美しさだ。