大相撲春場所で大ケガを負いながら逆転優勝し、全国のファンの感動を誘った稀勢の里(30)。新横綱の優勝は15日制になってわずか4人、日本出身横綱の2場所連続優勝は貴乃花以来19年ぶりの快挙だった。土俵下の苦悶から優勝決定戦を制するまでの「凄絶な48時間」を克明にレポートする。
劇的な逆転優勝から3日後の3月29日、師匠の田子ノ浦親方(元幕内隆の鶴)は、横綱稀勢の里のケガが左上腕部の筋損傷で、加療1カ月と診断されていたことを明らかにした。スポーツ紙デスクが言う。
「後日、再検査を受けるということでまだ予断を許しませんが、心配された大胸筋の損傷ではなく、土俵人生に深刻な影響を及ぼすことはなさそうです。4月2日から始まった春巡業は当面、休場。田子ノ浦親方は『まずはしっかり治さないと。本場所もあるので』と話していました」
今場所の稀勢の里は初日から12連勝と快進撃するも、13日目の結びの一番、横綱日馬富士戦でアクシデントに見舞われた。日馬富士の鋭い立ち合いに対し、左足から踏み込むと、おっつけた左手が空を切る。スポーツ紙記者が取材メモを見ながら振り返る。
「八角理事長と藤島審判長は、ケガは『左がすっぽ抜けた時ではないか』と推察していた。VTRを見ても、上体を起こされてもろ差しを許すと、下がりながら左から張り、その直後に顔がゆがんだ。土俵下に落ちて左肩を強打し、ダブルでダメージを受けたようだ」
すぐに右手で左胸を押さえて苦悶の表情を浮かべた新横綱は土俵には戻れず、支度部屋に急いだ。相撲協会関係者が振り返る。
「通路で『ハァ、ハァ』と呼吸が荒くなり、支度部屋では『いてー! ウォー、ア~ッ』とうめき声を上げていた。誰の目にも異常事態に映り、親方衆が駆けつけるほどの緊迫感。親方の一人は『あれほど痛がるなんて』と心配そうでした」
医務室に移動し、「緊急治療」を開始。応急処置として左肩付近を三角巾で固定し、氷で冷やされた。相撲協会関係者が続けて明かす。
「触診した医師に『音がしたのか』と聞かれてうなずくと、『外れたり折れたりした感じではない』と答えました。ただ、『動かない。動かすと痛みがあって怖い』とも」
その後、駐車場に向かい、カメラマンから脚立を借りて腰を下ろすと、無言のまま救急車の到着を待った。病院では田子ノ浦親方が「今日は様子を見る。明日、本人と相談して決めたい」と話すにとどまった。
以降、情報漏洩を防ぐために箝口令が敷かれ、宿舎は閉門。異常事態発生に、部屋関係者は「大丈夫」を繰り返すばかりだった。
「通常はレントゲンのあとに鎮痛剤と消炎剤の投与でしょうか。相撲界はドーピングに厳しくないので、場所中の注射も、薬を飲んでも問題ありませんからね」(前出・スポーツ紙デスク)
翌日、朝稽古に稀勢の里の姿はなかった。そのためか入院説が流れ、騒然となる。民放局記者が話す。
「静岡から親しいトレーナーを呼び寄せて診てもらっていたんです。いつもどおり14時ぐらいに会場入り。その前、部屋でいびきをかいて昼寝をしていたそうです(笑)」