19年ぶりの日本出身横綱誕生は、日本中を大いに歓喜させた。新入幕から73場所を要する超スロー昇進となったのは、モンゴル人横綱の「同盟」と「部屋崩壊」という障壁が立ちはだかったから。そこにガチンコでぶつかり、乗り越えた激闘の歴史があった。
初場所千秋楽、結びの一番。白鵬(31)の渾身の寄りを弓なりになって耐え、左からのすくい投げ。「どんなもんだ」と言わんばかりに胸を張る稀勢の里(30)。その誇らしげな姿に、日本中のファンが喜びの声を上げた。稀勢の里の第72代横綱昇進が決定した瞬間だった。
「白鵬は、あの一番を絶対に落としたくなかった。しかし、120%力を出し切っても稀勢の里に勝てなかった。あの一番は白鵬にとって、ものすごいショックだったに違いない。まさに土俵の主役が交代する瞬間だったんですよ」
元力士はこう言って、大一番を振り返る。
とはいえ、これからもモンゴル人横綱との壮絶な闘いは続く。稀勢の里が8割方優勝をつかんでいながらよもやの敗戦に泣いたのは一度や二度ではなかった。「それが大きく変わる」と断言するのは、辛口で知られる相撲ジャーナリストの中澤潔氏である。
「白鵬の力が落ちているのは紛れもない事実。彼一流のしゃべりでごまかしていますが、はっきり言って落ち目ですよ。そういう横綱が昨年、2度も優勝しているのですから驚くべきことです。他の2人のモンゴル人横綱、日馬富士(32)、鶴竜(31)もケガがちで成績を残せない。これからは彼らとの決戦もやりやすくなるでしょう。今場所のように100点満点の相撲が取れれば何も怖くない。35歳までやったとして15回ぐらい優勝できます」
そのモンゴル人横綱の相撲を見ていると、不可解な一番が少なくない。
例えば鶴竜は横綱に昇進する前、14勝1敗のみごとな成績を収めたのに、昇進後は、これが横綱の相撲かと驚くほどに、ブザマな姿をさらし続けている。事実、本当に力を出し切っているのかと思うような相撲が多いのである。
「稀勢の里との決戦を制して白鵬が優勝を決めた時などに稀勢の里に対して見せた闘志は、モンゴル人同士の取組には見られない。国民の気質もあるのかもしれないが、ファンが見たいのは、そういう闘志あふれる相撲ですよ」(前出・元力士)
別の元力士はモンゴル人3横綱について、こんな指摘をするのだ。
「優勝戦線に加わっている中でひとつ後れを取った場合、最後まで踏みとどまって逆転Vというケースはなかったように思う。先行した横綱に優勝を譲っているような感じを受けた。3人の中では最も実力がある白鵬が後れを取った際も、残りの2横綱の誰かが白鵬に勝ってあっさり優勝するというパターンばかりです。言ってみれば、これは『モンゴル同盟』という感じなのかな。まさかとは思うが、星の回し合いをしていると見られかねないほど。その3横綱同盟に、稀勢の里は敢然とぶつかっていった。だから、横綱になるまでに時間がかかったんだろう」
だが「横綱・稀勢の里」の誕生で、そうした土俵の空気も変わるかもしれない。