高齢者による自動車事故が社会問題となっています。5月2日には76歳の女性が運転する軽自動車が病院のロビーに突っ込み13人を負傷させました。
3月の改正道交法では認知機能検査が導入され、医師から認知症を診断された場合、免許停止もしくは取り消しとなる処置も取られましたが、これまでに事故を起こした高齢者は、認知症の診断をされていなかったそうです。
高齢者に対し、警察は免許証の自主返納を求めていますが、ここで問題です。「やや反応が鈍くなった」と自覚がある場合、免許証は返納すべきでしょうか。それとも運転を続けるべきでしょうか。
社会的に考えた場合、これだけ事故が起きている現状を見ると、やはり返納するべきでしょう。ただしこれは地域によって考えるべき問題でもある気がします。東京などの大都市や周辺都市の場合、免許を返納しても電車やバス、タクシーなどの交通網が発達しており、無料パスも発行されています。免許を返納してもいくらでも「足」がありますが、問題は過疎地域。スーパーまで車で1時間かかるような地域に住んでいる場合、車がないと死活問題となります。
現実的に考えた場合、自分が住む地域の交通事情により判断されるべきではないでしょうか。広大な北海道で運転ミスをしても大きな被害には至りませんが、少なくとも都会では運転をするべきではないと思われます。このあたり、条例で決めるのがベターだと感じます。
都会の高齢者はできるだけ運転を控え、「息子の嫁が陣痛になった」などの緊急事態にのみ運転をする、くらいでちょうどいいでしょう。
免許証は身分証明書もしくは家族の非常時のために取っておき、少なくとも買い物レベルやレジャーなどでは、運転を自重するべきだと思います。
医学的に見るとどうでしょう。「自分はボケてきたかもしれない」と思う高齢者は、実は認知症ではありません。なぜなら認知症には自覚症状がないからです。事故を起こすのは「私はまだ元気、ボケていない」と言う人です。
つまり「私は大丈夫」と思っていること自体が問題であり、危険性を伴うわけです。
70歳を過ぎると、反応速度は若い人より確実に落ちます。運転中、子供が飛び出してきた場合の「反応速度の差」は、どんな人でも生じます。どんなに運転に自信があろうとも、20歳の人と70歳の人が、同じ反射速度でブレーキを踏めるわけがありません。
経験豊富で思慮分別がありボケてない。そんな人でも事故のリスクは高まるのです。
免許センターでは反応速度の測定をやっていませんが、本来ならば、もぐらたたきゲームをやらせて合格ラインを決めるぐらいが、判断基準としてはベターかもしれません。
「運転が好きだ」と言う両親から免許を取り上げるのはかわいそうだ、という場合、買い物などでは使わせず、一緒にドライブなどに出かけた場合のみ、運転をさせてあげるのも一つの手です。あなたが助手席にいれば、楽しくドライブを楽しめるでしょう。
東京都など大都市周辺の自治体の多くは「70歳以上」になるとシルバーパスを発行しています。シルバーパスとは「もう運転をしないでください」として発行されている面もあるでしょう。
都会に住んでいる場合、パスを手にする年齢になったら運転を卒業しましょう。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。