たとえ「顔面まひ」になろうが、舌鋒鋭い落合節は健在だった。講演会に詰めかけた超満員の聴衆を相手に、ゴタゴタ続きのWBCをメッタ斬り。監督人事から代表選手の選考方法まで、みずからが悪者になった前回大会を振り返りつつ一刀両断したのである。
「そんなに世の中の人って、WBCの参加問題に関心ありました? 俺、一切関心なかった。出ると思ってたから」
9月6日、渋谷公会堂に詰めかけた2000人余りの聴衆は、主役の一言一句に沸き返っていた。
しかし、マイクの前に立った前中日監督・落合博満氏(58)の顔は、左の口角が引っ張られたように少し上がっている。すでに報じられているが、落合氏は8月16日の早朝に「顔面まひ」が発症して救急車で病院に搬送されたのだ。
命に別状があるような重症ではなかったようだが、いまだにしゃべると空気が少し漏れてしまうような状態である。それでも落合氏は聴衆の前に立ち、2時間しゃべり続けたのである。
今や講演に引っ張りだこの人気者だが、そのプロ根性はさすがと言わざるをえない。
そして、期待に違わぬ“猛毒口撃”を開始した。
今回のやり玉は、先の発言でもわかるように、9月4日になってやっと選手会が参加を表明した「WBC問題」だ。
まずは監督人事について、現在、監督の有力候補として浮上しているのは、元広島監督の山本浩二氏(65)。落合氏も「12球団が協力しやすい」人選として賛成の意を示したが、一方で別の候補者を強く推したのである。
「3回目はなり手がいない? いや、いるんです。やりたいけど白羽の矢が立たないんです。いちばんやりたいのは野村さんに決まってるじゃん。俺も野村さんのやる全日本を見てみたいですよ。ところが、あの人をやらそうという動きはない。あの人に戦力を与えたらどういう戦いをするか、見てみたい人はいっぱいいると思うけどね。王、長嶋、野村の3人だったら、誰も文句は言わないでしょう。野村さんはちょっと言われるかな(笑)」
参加発表前には、巨人の渡辺恒雄球団会長(86)がラジオで「落合君しかいない」と語っていたが、そんな待望論についても落合氏はきっぱりとこう否定してみせた。
「お日様が西から昇っても、俺がWBCの監督をやることはありません」
さらに、一部で加藤良三コミッショナー(70)に嫌われているから落合氏の監督就任はない、という論調の報道があったことを受け、記事の内容は否定したうえで、こうまくしたてたのである。
「別に俺、加藤さんに好かれようと思ってなかったから。加藤さんは『時間作ってくれ』と会いたがったけど、『時間ない』って断り続けてユニホームを脱いだ。どうせ意見交換しても、実現してくれないですから」
とはいえ、加藤氏がコミッショナーに就任直後、中日にキャンプ訪問した際は球団に促されて対面を果たしているという。
「短気な人でした。自分と違う考えを言われると、顔を真っ赤にして怒るの。怒ってきた、怒ってきたって‥‥(笑)。そもそも、何でボール(公式球)に『加藤良三』と名前を入れなきゃいけないんだ。白いボールが黒く見えてしょうがない。やらなきゃ、白くて見やすいのにね。野球を愛してる人で、同じ秋田出身なんだけど、考え方がまったく違うんだよな」
WBC参加を巡るゴタゴタでも、迅速に動かない加藤氏の対応には批判が出ていたが、落合氏もバッサリ斬り捨てたのである。