少し前、ある日の昼。思いっきりオフにて家でゴロゴロしていたわたくしに、殿から“夜、焼き鳥屋で飯”の誘いがありました。
18時過ぎ、指定された店の前で殿を待つこと15分、殿の車が到着。いつものように後部座席のドアを開け「おはようございます」と挨拶をすると、すぐに降りてきた殿は、
「あれ? お前、こんなとこで何してんの? 職探しか?」
と、この日1発目のボケを軽く放り込んできたのです。わたくしも、こういった“ノリ”が、嫌いじゃないほうなので、「いえ、職探しではないです。ちょっと村の青年団の寄り合いがありまして。その帰りです」
「あっそう。寄り合い? 大変だな~、じゃーな」
と、殿がそそくさと焼き鳥屋へ入ろうとしたところで、「殿、ちょっと待ってください!」と、店先でのミニコントを切り上げて、胃袋を刺激する煙漂う店内へ。ちなみに、殿もわたくしも、このお店はお初でありました。で、個室へ案内されると、席に着くなり、
「お前何飲む? ビールか?」
と、殿からのお気遣いがあってビールをお願いすると、
「俺、何にするかな。ワインもあるのか。いっぱいあるな‥‥」
と珍しく迷う殿。このタイミングでやってきた店員さんに、「どのワインが人気なんですか?」と、わたくしがお聞きすると、「こちら、濃厚な味わいで人気ですよ」と、メニューの中の、グラス1杯800円のワインの銘柄を指差します。すると殿が、
「800円か。高いな~。味薄くていいので、200円くらいになりませんか?」
と、“面白オーダー”を軽く炸裂。
で、もうこの後は、
「北郷、今月ちょっと苦しいから今日は割り勘な」
だの、
「お前、あれだよ。最後会計が足りなかったらここで住み込みで働かせてもらうって選択もあるぞ。暇はやるから」
だのと、とにかく明るく楽しい酒であったのですが、なぜか途中から、やたらと、
「ここの焼き鳥うまいよな?」
「ここうまいんだろ?」
「北郷、どうなんだ? ここはうまいのか?」
等々。なぜかご自分の舌を一切信用せず、やたらと回りに味の確認をされていたのがどうにもおかしく、最後、店を出る時など、偶然いらした知り合いのディレクターさんにお会いすると、「あっいたの?」と、挨拶を入れ、すかさず、
「ここさ、うまいんだよね? 評判なんだよね?」
と、帰るギリギリまで確認をとっていました。で、車に乗る直前にも、
「北郷、ここちゃんとうまかったよな? いいよな?」
と、ラストにもう一発確認を取られ、帰っていかれたのでした。殿、ご心配なく。先日の焼き鳥屋、大変おいしゅうございました。ですので、また是非、連れて行っていただければと。
ビートたけしが責任編集長を務める有料ネットマガジン「お笑いKGB」好評配信中!
◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!