「最近はやたらと芸能人にボクシング好きが多いけど、俺が一番詳しいんだから。俺が一番古いんだから」
昔っからボクシングが大好物な殿が、先日放送された、某ボクシング特番にて最後に漏らした言葉です。
学生時代の殿が名門「ヨネクラボクシングジム」に通っていた話は、たけし信者の間では有名ですが、殿は本当に「ボクシング愛」が強く、とんでもなく知識量豊富です。そんな殿が、ボクシングについて語りだすと、あまりにもマニアック過ぎて、途中から誰も付いていけず、ただただ、周りはうなずくばかりになることがよくあります。
先日も、判定が物議を醸した、ミドル級・村田諒太選手の試合をテレビ観戦し、少しばかり興奮した殿は、“かつてオイラが見た疑惑の判定”といった思い出を皮切りに、“オイラが過去に見た最高のボクサーたち”といった話題を展開させると、誰が誰に負け、誰に勝ち、誰と誰が再戦をしたのか、そして晩年、そんなボクサーたちが何をして暮らしていたのか、といったところまで、夢中になって事細かに語っていました。その語りがあまりにも熱を帯びていたため、当初予定していた番組の打ち合わせを15分ずらしたほどです。
で、ボクシングを観て、体を動かしたくなったのか、その日の殿は、楽屋にておもむろにシャドーボクシングを1分程始めると、お次は何かを確認するかのようにゴルフスイングの素振りを5回。そして、少し休んで衣装に着替え革靴を履くと、今度はタップを踏みだしました。拳闘にレジャースポーツにダンスにと、実に忙しい方です。そんな、いつだって忙しい殿が、ボクシングジムに通っていた事実は先ほど書きましたが、“あ~、本当に熱心にジムに通っていた時期があったんだな”とわかるエピソードを一つ──。
これは軍団の兄さんから聞いた話ですが、もう大昔、殿がキレる場面があり、“これはやばい”と感じた軍団の兄さんたちが、みなで慌てて殿を止めに入ると、止めに入った軍団に対し、フック、ボディ、アッパーといったコンビネーションを使い、バンバン殴り倒していったそうです。
その話を、以前、殿の機嫌が良い時にあてると、
「あ~、あの頃が一番パンチが速かったんだよ」
と、サラリと振り返っていました。そういえば、7年程前の年末、殿と赤坂の夜の街を歩いて移動している時、忘年会シーズンだったため、いつもより明らかに町には人も酔っ払いも多く、〈変なヤツが殿に気づいたらめんどくさいな。何かあったら嫌だな〉と、一抹の不安を覚えていると、そんなわたくしの不安な顔つきをすぐさま察知した殿は、
「お前は後ろだけ気にしといてくれ、前から変なのが来ても、俺は4人までは大丈夫だから」
と、まるで傭兵部隊出身者のように、実に冷静に危機回避能力を誇示されたのでした。面白くて優しくて腕っぷしも強い。今一度改めて、弟子入りが後を絶たないはずです。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!