健康のために、今、“一汁一菜”が見直されている。書店には「一汁一菜」の本が数多く並ぶ。
“一汁一菜”は長寿の秘訣だという。
料理家・土井善晴氏の著書「一汁一菜でよいという提案」(グラフィック社)が売れている。
土井氏といえば家庭料理の第一人者であった土井勝氏の次男で、料理研究家としてのほか、大学の教壇にも立っている。土井氏はこの著書の中でこう述べている。
〈ご飯を炊いて、あとは具だくさんのお汁を作ったら十分。家庭の料理は毎日、毎食、この一汁一菜でいい。これだけで健康は維持できる〉
〈献立の基本形は「一汁三菜」だと長いこと言われてきた。ところがその成り立ちは神様へのお供えであり、お公家さんが食べるハレの日の料理だった。それが和食の基本だと誤解されるようになってしまった〉
それが、料理を作ることを義務だと感じさせ、毎日の献立を考えるのが大変だと思わせてきてしまったとも論じている。
〈今の人たちはごちそうが家にある状態を当たり前だと思っている〉
〈心をこめて飾り立てるハレの日の料理と、日常の料理を一緒くたにする必要はない。家庭料理がいつもごちそうである必要はないし、いつもおいしくある必要もない〉
その理由については、
〈「おいしい」って舌先で味わうものばかりじゃなく、食べた後に「なんだか体の中がきれいになった気がする」という、細胞のひとつひとつが喜ぶような、「心地良い」というおいしさもある。一汁一菜はその柱となる食事のスタイル〉
それが健康の基本なのだと言う。
『若杉友子の「一汁一菜」医者いらずの食養生活』(主婦と生活社)も興味深い内容が記されている。著者で、今年で80歳になる若杉友子さんは30年以上にわたり日本人にとっての正しい食事とは何かを研究・実践しつづけている食養研究の第一人者だが、こう述べている。
〈一汁一菜を守れば基本的に体調を崩すことはありません〉
例として、禅寺をあげる。禅寺の食事は一汁一菜。禅僧たちは一汁一菜の食事で寺の仕事と修行をこなしているが、健康で長寿をまっとうしている。
そして若杉さんはこう締めている。
〈一汁一菜を守っていれば、食べ過ぎになるということもなく、標準的な大きさの器に常識的な盛り方をすれば、特に複雑なカロリー計算などしなくても食べ過ぎを防止することができる。かつて一汁一菜を守っていた日本人には、肥満や高脂血症などはほとんどなかった〉
ドキッとする方も多いのでは。すべての基本は食生活。見直す契機になればいい。
(谷川渓)