そして迎えた6月7日の初対局は、持ち時間20分の早指し戦。瞬時に最善手を指す判断能力が勝負を分ける。
「少し定跡を外し、相手を惑わせる指し方をしたのですが、短い持ち時間の中でその弱点を的確にとがめられてしまった。あっという間に完敗で終わりました」
その後の2戦目を経て、都成四段はあらためて藤井の強さを知る。それは「大きなミスの少なさ」だという。
「プロの棋士でも、細かいミスは多いし、一局に1つくらいは勝敗につながるような見落としをすることも珍しくない。藤井四段の場合はこれまでの対戦を見ても、少なくとも『その一手が全てをフイにする』というようなミスが極端に少ない。まだ中学生ということを考えると、とんでもなくすごいと思います」
冷静沈着かつ正確無比な将棋といえば、将棋界で何かと話題の“将棋ソフト”が想起される。今年5月に開催された第2期電王戦で佐藤天彦名人が将棋ソフト「Ponanza」に敗れたニュースは記憶に新しい。
「僕は、藤井少年は、藤井聡太の皮をかぶったPonanzaなんだと思う」
そう語るのは、40年の将棋歴を持つ俳優の森本レオ(74)だ。勝新太郎や長門裕之ら愛棋家の先輩名優にもまれ、「将棋の筋を読めずに台本が読めるか!」と言われてきた森本いわく、
「僕らが習った将棋には、暗黙の了解があったんですよ。序盤はまずお互いに陣地を固め合い、中盤で攻める糸口を作りどこかで火蓋を切って、終盤の寄せでぶつかり合うというね。ところが藤井少年は、飛車先の歩を切るだけのご挨拶レベルで、いきなり寄せに突入しちゃうんです。出たら戻れぬ桂馬跳ばして。羽生様相手にすら何のおびえもなく。藤井少年の魅力は、もしかしたら新人類が誕生するという予感なんですよ」
森本は将棋観を根底から覆されたそうだ。これまでの定跡では計れない指し筋を見せる藤井を評し、
「現時点での棋力は羽生さんのほうが上だと思うんです。ただ、羽生さんが“人”としての頂点だとしたら、それとは違う扉を開けちゃった気がする。人間とコンピュータがドッキングしているというか。自分の脳にソフトを組み込んでる感じがするんですよね。怖いくらいです、僕はちょっと一緒には指せません(笑)」
藤井の登場は、棋士だけでなくオールドファンにとっても衝撃だったようだ。