尖閣諸島を巡り日中関係は依然、極度の緊張状態だ。中国国内で日系企業が襲われ、中国政府高官は、日本への経済制裁までチラつかせた。「開戦前夜」とも呼べる状況に、日本政府は淡々とした対応に終始しているが、このまま「中国の属国」になるのはゴメンだ。憂国の論客7人が、軍事、外交、経済とあらゆる分野での「中国との戦い方」を伝授する!
「中国の『尖閣』強制占領の可能性は低いと思っていますが、万一の事態が起きた場合の覚悟はできています。何より我々の練度(熟練度)は高く、自信もあります」
これは、本誌が航空自衛隊関係者から聞き出したセリフだ。もちろん、「万が一の事態」とは、人民解放軍との激突である。「緊張感は高まっていない」としながらも、日本を守る決意は本物と聞こえた。
去る9月10日、野田政権は尖閣諸島の国有化を閣議決定。翌11日には、約20億円で魚釣島、南小島、北小島の3島を地権者から政府が買い上げた。日本固有の領土を政府が購入することに、他国がとやかく口を出す権利などない。
ところが、根拠のない領有権を主張する中国では、そうはいかなかった。中国国内で「反日デモ」が繰り広げられたのだ。そのデモは、満州事変の発端となった柳条湖事件から81年目を迎えた9月18日にピークを迎える。中国国内の日本大使館や領事館には中国人たちが詰めかけ、石やペットボトル、生卵まで投げつけられた。さらには、日系企業の中国国内施設が焼き打ちにあうなど、蛮行が繰り返されたのだ。
この「反日デモ」参加者に関し、「尖閣には無関心で、政府への不満から暴れたいだけの人間の集まり」という指摘もある。また、公安当局から参加者に“時給”が支払われているとの報道まであった。実際、9月19日までに政府がデモ禁止を通達で鎮静化するなど、「官製」デモである疑いもある。
ただし、海洋監視船などの尖閣近海での領海侵犯、日系企業への通関厳格化などの経済制裁も含め、一連の中国の挑発行為に対し、日本は抗議をするにとどまっている。そのせいか、増長した人民解放軍幹部が香港紙に登場し、「海上自衛隊が尖閣諸島の12カイリに入れば断固として軍事行動を取る」と主戦論を展開。すでに、人民解放軍の5軍区で「3級」戦備態勢の指令が出されているという。
ジャーナリストの村上和巳氏が言う。
「当然、自衛隊は尖閣には指一本すら触れさせまいとします。一方、中国は台湾独立を阻止するために軍事行動をするという『国家分裂阻止法』という法律があるぐらいですから、自衛隊が動けば、人民解放軍が大規模な戦闘行為とまではいかずとも、何らかの軍事行動は行うでしょう」
こうした一触即発の状況下、本誌は論客7人にそれぞれの専門分野で「中国との戦い」をシミュレートしてもらった。「尖閣全面戦争」の必勝法を以下──。
世良光弘(軍事ジャーナリスト)
「日本の第2護衛艦隊が中国の東海艦隊を撃破する」
もし中国と全面戦争になれば、勝敗のポイントは自衛隊の「質的優位」が人民解放軍の「物理的優位」にどこまで耐えうることができるか、ということです。
自衛隊員の推定約23万人に対し、人民解放軍は10倍となる約230万人。戦闘機は日本の約260機に対し中国は565機です。艦艇も143隻対1090隻と言われています。国防費も今年度の日本が約4兆7000億円であるのに対して約2倍近い8兆7000億円です。ですから、ズルズルと総力戦には持ち込まず、短期的な局地戦で勝利して外交的に手を打つということが必須となります。
最初に中国は漁民を装って、人民解放軍兵士を尖閣に不法上陸させることが想定される。彼らは、90年代に設けられた重武装の特殊部隊のえりすぐりの兵士たちです。
同時に、中国海軍は尖閣周辺に艦艇を派遣し、戦闘機も飛ばしてくる。正攻法として水陸両用空挺部隊も堂々と展開することも考えられる。
これに対し日本は、中国の「国家意思」を確認後に、陸自の「西部方面普通科連隊」が、佐世保(長崎)から海自輸送艦で緊急展開します。この部隊は、敵の占領地域の奪還を主な任務にする陸自の精鋭部隊です。さらに、米軍最強と言われる海軍特殊部隊シールズを参考に創設された海自の「特別警備隊」が江田島(広島)から出動します。
恐らく相手に探られないように作戦は夜間。暗視スコープを装備した西部方面普通科連隊が、低空飛行のヘリで接近し、ロープからラペリングで降下し制圧する。「特別警備隊」も、時速50キロで航行する高速艇で逆上陸をして奪還作戦をサポートし任務を遂行します。
この奪還作戦を成功させるためにはまず、制空権の掌握が必要です。
空自は、那覇基地と築城基地(福岡)から制空戦闘機の「F-15」が、同じく築城基地から対艦攻撃の「F-2」戦闘機が出撃します。対する中国の主力戦闘機は「J-10」です。その性能は明らかになっていませんが、もともとはイスラエルの戦闘機をベースに製造された機種です。この2つを比べると戦闘機の性能はもちろん操縦技術の練度も空自が勝っています。それに、空自には「空中の司令室」と呼ばれる早期警戒管制機(AWACS)・E-767があり、機体の背にある大型レーダーで半径約400キロ以上を探知する能力を持っている。これで中国軍の動きを詳細に把握できます。
この情報戦での優位は、海戦にも絡んできます。
重要な「制海権」を握る争いは、佐世保の第2護衛隊群と中国の浙江省から出る東海艦隊間で行われます。
東海艦隊で注意すべきは、最新鋭の「052C型駆逐艦」と「054A型フリゲイト艦」です。052C型駆逐艦は、中国版イージス艦と呼ばれ、索敵システムを搭載しています。さらに、054A型フリゲイト艦は、海面スレスレをマッハ1.5で進む対艦ミサイルを装備していて、海自にとって脅威となります。
空からは、「J-11B」が射程120キロの対艦ミサイルを撃ってくる可能性が高い。これに対して海自は、「こんごう型護衛艦」が活躍するでしょう。いわゆるイージスシステム搭載のミサイル護衛艦「ちょうかい」は、同時に200個の目標を探知し、艦隊防空の要となります。攻撃においても「ハープーン対艦ミサイル」で、中国軍の駆逐艦を撃沈するでしょう。また、中国の原子力潜水艦はエンジン音が大きく、海自の「そうりゅう型潜水艦」がただちに感知し魚雷で沈めるはずです。
総合すると、短期的な局地戦では自衛隊の兵器性能と、自衛隊員の練度の差で日本が勝利するでしょう。
ただし、完勝ではないと思います。イージス艦があるからといって波状攻撃を受け続けたら、撃ち落とせないミサイルが出てくるはずです。また、米軍がいるから大丈夫だという方もいるかもしれませんが、アメリカは膨大な血を日本が流すか、尖閣に続き沖縄が狙われでもしないかぎり動かない可能性が高い。「自分の国は自分で守る」ことが国防の基本なのです。
それから戦いが長期化すると、就役を早めたとされる中国初の空母「ワリヤーグ」が出てくる可能性が高く、かなり形勢に影響します。そうなると、実用を目指している艦上最新戦闘機「J-15」も連動して出てくるかもしれません。
まだ先の話ですが、「J-20」という第5世代のステルス機もテスト中と聞きます。配備にはまだ5年以上かかると言われていますが、現在の日本にはステルス機は1機もないので、この「J-20」が登場するようなことになると、日本にとっては大変な脅威になります。
ですから、日本政府は短期的な視点はもちろん、中長期的にも国防政策を熟考していかなければならないのです。