北野組の映画撮影は独特で、1週間撮影したら次の1週間は監督がテレビのスケジュールを入れているために休みとなる。
六平はテレビの仕事で北野監督と共演したこともあるという。08年のドラマ「あの戦争は何だったのか 日米開戦と東条英機」(TBS系)で、北野武は東条英機役、六平は軍令部総長・永野修身役だった。
そこには、北野組の現場とはまったく違う、役者・北野武がいた。
「楽屋で他の役者さんがいるのに、監督とずっと2人だけでしゃべってたよ。あまりにもしゃべるもんだから、助監督に『うるさいです。迷惑になりますから、静かにしてください』って怒られましたよ(笑)。『何だよ、あいつ、俺たちにうるせーって言いやがって。オイラ主役だよ』って監督は怒ってましたけど(笑)。本番前に監督は『六平さん、俺は東条のセリフ全部覚えたから、完璧ですよ』と自慢げに言ってましたけど、最後の長ゼリフは、きっちりカンペ見てました(笑)」
北野はメガホンを取る時とは違うリラックスした様子で、「俺は覚えてたんだけど、助監督がカンペ持ってたから、それを見ただけなんだよ」
と、言い訳したそうだ。
リラックスといえば、六平は07年公開の「監督・ばんざい!」(東京テアトル/オフィス北野)で演じた、肩の力が抜けたシーンを振り返った。
「演じた空手の師範役は、監督との即興のコントという感じでしたね。監督は『このシーン、俺と六平さんしかセリフないから本番いっちゃおうよ』って言うわけ。台本がないから『監督、セリフはどうしましょう?』と聞いたら、『大丈夫、ホワイトボードに書いて目の前に置くから』って一度のテストもなかったよ」
正座してる空手の弟子たちに向かって、説教するように、「長いものには巻かれろ」「負けるが勝ち」「触らぬ神に祟りなし」と、金言を延々と読むシュールなシーンだった。
「北野組の撮影は異常に速いですね。朝9時開始で、普通の組だったら夕方から夜まで行くパターンですけど。サクサク撮っちゃう」
はや23年の監督歴を誇るが、その撮影スタイルは不動のようである。
さて、最新作「アウトレイジ ビヨンド」(ワーナーブラザース映画/オフィス北野)の公開も間近(10月6日)だが、試写会で北野監督は、「新しい時代の暴力映画が撮れたと思う」と語っている。
北野映画に欠かせないバイオレンスについて、六平はこう語る。
「世の中には暴力と平和しかないと思わない? 戦争って暴力でしょ。市民を巻き込んで殺してしまうわけだから。犯罪ってのはある意味、全て暴力。映画は暴力を描くか、愛の物語しかないもんね」
六平は北野映画を全て見ているというが、「愛」を描いた話は、99年の「菊次郎の夏」(オフィス北野/日本ヘラルド)を、そして「暴力」は、90年「3‐4×10月」(松竹)でのスナックの場面で「トイレが臭い」と言った客の女をガダルカナル・タカ演じるマスターが酒の瓶で「野グソでもしてろ!」と言って女をぶん殴るシーンをあげた。
「あれは衝撃的だったね。北野映画って、暴力が等身大でドキュメンタリーみたいなんだよ。ウソ臭くないんだよね」
そんな北野映画の世界に六平はどっぷりと漬かっている。とはいえ、「出してください」とは言えず、次回作のオファーをじっと待っているという。