「BROTHER」ではセリフこそなかったが、六平は強烈なインパクトを残した。そして03年に公開された、北野映画初の時代劇「座頭市」(オフィス北野/松竹)でも出演オファーを受けた。
「六平さん、いい役だよ。ヤクザの親分だよ!」
また親分だった。六平が台本を読むと、冒頭に出てくる役である。
北野監督が畳みかけた。
「いいでしょ? 世界に向けて、最初に六平さんのアップですよ」
六平は思った。なるほど、監督うまいこと言うなぁ。
「ベネチアで金獅子賞(98年「HANA‐BI」)を撮った北野監督作品は、常に世界が注目してるわけですから。世界にまず俺のアップというのは、やりがいを感じました」
それだけに、演技には力が入った。
六平いわく、「役者はよく監督がどういう演技を求めているかを考えすぎてしまうことがある」という。例えば伊丹十三監督だったら、テキパキ動きながらもセリフが言えるような芝居、深作欣二監督だったら、風格、オーラのあるようなヤクザの芝居といったイメージだ。役者の習性なのだろう。
「まぁ、そんな演技は俺にはできないんだけど(笑)。そういう、監督が望みそうな演技を考えてしまうもんなんです。北野映画のイメージとして、ボソボソとセリフをしゃべると、芝居が“うまげ”に見えるんじゃないかなとか、いろいろ考えてました」
ところが、このオープニングのシーン、北野監督演じる座頭市は六平からかなり離れたところにいて、声を張らないとセリフが届かない。先にも記したとおり、北野組のテストは1回。演技指導だってない。いろいろなパターンを試すことができないうえでの演技だ。
「子分をいっぱい引き連れて、市に近づかなきゃいけない。結局、思いっ切り声を張って叫びました。『イチ〜ッ!』って。結果、一発でOK。別に北野組だからって、小さい声でボソボソしゃべらなくたっていいんだと思いましたね。監督は俺の『イチ〜ッ!』という叫び声が気に入ったのか、映画の予告に使ってくれました」
信頼されているからこそ、北野映画に出演した役者たちは充実感と緊張感を持って演じるのだろう。
「俺の知ってる監督で、テストを1回で撮ってしまう監督は新藤先生(故・新藤兼人監督)と北野監督だけ。『映画ってキャスティングが全て』とかつて新藤先生がおっしゃってましたが、お二人とも演技は自由にやればいいんじゃないかと望んでるんじゃないのかな?
なぜなら俺をキャスティングして、この役はあなたですよ、と託してるわけだからね。俺は演技に関しては一切質問しません。映画監督の考えることを役者ごときの頭じゃわかんないですよ。利口な役者なんてなかなか会ったことがない。ここはしっかり書いておいて(笑)」