「過信していると批判されてもやらないかん!」
国内では携帯電話業界で覇を競う一方、ネットビジネスでは、世界一の市場・中国を「制する」戦略を推し進めた。そんな最中に起こった大震災。若き日から鍛えられた「発明」の感覚が、未曾有の災害と化学反応を起こすように新ビジネスへと突き動かしたのだ!
やると言わねば男じゃない
ソフトバンクグループ約900社を率いる孫正義は、中国にもすさまじい勢いで進出している。孫は、信じて疑わなかった。
〈世界一の人口を誇る中国を制することこそ世界一の絶対条件となる〉
2000年冬に孫は、ジャック・マーと北京で初めて顔を合わせた。ジャック・マーは、1999年3月、資本金50万元を元手に、杭州でアリババを設立し、アリババ・ドット・コムの運営を始めた。
ネット上に大規模なビジネス交流サイト建設を目指す杭州日中貿易の企業間取引ポータルサイトは、シリコンバレー、インターネット投資家からインターネットの4つ目のビジネスモデルとして注目された。
おかげでゴールドマン・サックスなどの投資家が500万ドルの投資金を導入。サイトの収入は1銭もなかったが、アリババブランドへの投資金は1日で100万元に達するという奇跡を成し遂げていた。
自分のビジネスについて語るジャック・マーの話に耳を傾けていた孫は、ほぼ5分のところで制した。
「キミの話は、もういい」
ジャック・マーの力強く響く声が一瞬にしてかき消えた。それとともに、らんらんと光る目が、見開かれた。孫の言葉をどう受け止めるべきか揺れていた。
孫は、あえてゆっくりと語った。
「キミの話はいいから資本を入れさせてくれ。それも35%」
孫は、志が大きく、狙っているものも大きいジャック・マーに投資することを即断即決した。00年1月、2000万米ドル、日本円にして20億円を出資した。ジャック・マーが必要としていた資金の90%にあたる額である。孫は、アリババ・ドット・コムの主席顧問となった。それから3年近くたち、ジャック・マーが、当時中央区日本橋箱崎町にあったソフトバンク本社を訪れた。孫はジャック・マーに、かねてから思っていたことを口にした。
「キミのところは、BtoB(ビジネス間取引)で成功しているけど、それだけで満足しているのか。BtoC(企業消費者間取引)とか、CtoC(消費者間取引)をやらないと本当に大きな成功はできないのではないの?」
「そのタイミングは今ではありません」
孫は、身を乗り出した。「そうではないだろう。やるなら今だ。必要な資金は、100%うちが出す。CtoCに対して、経験もノウハウもないというのなら、その面でも協力しよう」
孫が提示したのは、資金からノウハウ、人材、戦略に至るまですべて面倒を見る。その上で成功すれば利益は50%ずつ分け合い、もしも失敗したらソフトバンクですべてリスクを負う、という破格のジョイント・ベンチャーの提案であった。孫は、念を押した。
「これで、『やる』と言わなければ、男じゃないぞ。今すぐ返事をしてくれ」