今となっては正確な記録が残っていないのでこの“初の放棄試合”も「一説によると」という但し書きがつくが、その高校とは今夏、滋賀県代表となった彦根東とされている。
それは53年第35回大会の滋賀県予選でのことだった。この年の春の選抜に出場した彦根東は春夏連続出場を目指して大津東(現・膳所)と対戦。事件は2‐3と1点を追う彦根東の9回表の攻撃に起きた。1アウト3塁のチャンスを迎えていたものの、次打者がスクイズを外され、ランナーが三本間に挟まれてしまった。だが、このランナーがタッチをかいくぐりホームイン。一旦はセーフと判定されたが、審判団が協議。その結果、ランナーがスリーフィートラインオーバーという守備妨害を犯したとみなされ、判定がアウトに覆ってしまった。これに納得できない彦根東の選手たちが座り込み抗議。観客席からはカンやビンが投げ込まれ、不穏な状況となったため警官隊が駆けつけ、約2時間半後には試合を再開させようとしたが、彦根東ナインは試合続行を促す審判の求めに応じなかった。収拾がつかなくなったこともあって没収試合となり、結果、大津東の勝利となった。一説にはこの試合が高校野球の公式戦で全国初の放棄試合とされている。
ちなみにこのエピソードだけ聞くと彦根東に対しておかしな先入観を抱く人もいるかもしれないが、実は同校は彦根藩藩校の流れをくみ、200年以上の歴史を持っている。文武両道を掲げていて、県内屈指の名門校でもあるのだ。
(高校野球評論家・上杉純也)