「身内の笑いとか、楽屋での笑いなんかのノリを、テレビで平気でやっちゃったのが『ひょうきん族』だよ」
殿は「ひょうきん族」を振り返って語る時、必ずと言っていいほど“いかに自由に好き勝手やらせてもらったか”的なことを踏まえた発言をよくされます。そして、その後に必ずと言っていいほど、
「俺たちがやりだした頃は、もうドリフ(『8時だョ!全員集合』)の全盛期だから、いかにあっちと違うことをやるかだよ。あっちはガチガチに決まった、アドリブのないコントだろ。だからこっちは、好き勝手なアドリブだらけで崩したことをやったんだよ」
と、“フジの「ひょうきん」vsTBSの「全員集合」”という、わくわくした、あの土曜夜8時の“土8戦争”での戦い方を、さらりと言い足したりします。
しつこいようですが、本当に殿は「ひょうきん」を振り返る時、こういった発言をよくされます。
ちなみに殿の家には、タケちゃんマンに扮した殿と、「ちょっとだけよ」のハゲヅラ、丸眼鏡、ちょび髭姿に扮した加藤茶さんが、1枚の写真に納まっているツーショット写真が保管されています。なんでも、「フジテレビで収録してたらよ、なんか加藤さんたちが近くでロケしてて、それで俺の楽屋に遊びにきたんだよ」だそうです。この“昭和お笑いアベンジャーズ”の記念写真、かなり貴重です。
で、殿が「ひょうきん」の中での当たり役、タケちゃんマンを、かつてこう評していたことがありました。
「ウルトラマンでも仮面ライダーでも、騒いで動き回るのは怪獣のほうで、主役のウルトラマンは実際そんなに奇抜なことしねーんだよな。だからタケちゃんマンも、さんまが毎回はしゃいでボケるから、こっちは基本的には受けで、あんまりボケたりしなかったんだよ。二人でやりだしたら、収拾つかなくなるから‥‥」
天才同士のせめぎ合いぶりがうかがえる、これまた貴重な発言です。最後に、殿の口から一番多く聞いたことのある「ひょうきん」の思い出を一つ──。
「収録中に俺がおでこにケガしてよ、すぐに病院に行って、3針だか4針だか縫ったんだよ。それでスタジオに戻ってきたら、さんまとか赤信号のナベとかが、『たけしさん、大丈夫ですか? それ、縫ったんですか? 痛そうだな』って、やたら心配して周りに集まってきたから、『3針縫ったよ』って言ったら、さんまが『やった! やっぱり3針だ! わいの勝ちや!』って喜んでんだよ。なんのことはない、あいつら、俺が何針縫うか、昼飯を賭けてやがったんだよ。ひで~野郎だよ!」
殿は「ひで~野郎だよ」と言っておりますが、これまた、当時の“ノッてる番組”での“みんなで遊んでる感じ”がよく伝わる、素敵なエピソードだと強く思いました。
とにかく、殿の口から語られる、「ひょうきん」の思い出は、どんな些細な出来事でも、いつだって聞きたくてたまらない、わたくしなのです。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!