X氏は現役時代の後半から原氏の信頼が厚く、巨人監督時代には「FAの下調査」をしたり、選手の行動や言動まで調べ上げるブレーンとして支え、時に原氏がメディアへの発信のしかたまでアドバイスしていた存在だ。みずから息のかかったメディアを使って世論操作とも取れるような“援護射撃”をすることまであったという。
「原さんは、09年のWBC監督時にもX氏を実質、GM的な立場で使っていました。代表選手を決める際の下交渉などはX氏が担当していたんです。X氏が事前に選手の事情などを調べ上げてくるため、当時の落合監督が非協力的だった中日を除き、選手選びのドタバタや摩擦はほとんどなかった。原さんは監督として国際経験はなかったのですが、X氏が経験豊富な人たちからリサーチしてきて報告し、陰で支えていたんです」(巨人関係者)
今回、2大会連続でWBCのメダル奪回に失敗したことを問題視した強化委員会は、恒常的なフロント組織の必要性に迫られ、山中氏をトップに強化本部を新設した。「監督はフィールド内の指揮に専念してください。あとは私たちが整えます」というコンセプトである。
それでもプロ側との調整役として副本部長を2人つけることになっており、原氏はX氏のねじ込みを考え、強化本部入りを監督受諾条件に付け加えたのだという。だが、「X副本部長」案は、全力で拒絶される。
「そりゃ、一介のメディア関係者ではダメでしょう。山中本部長は野球殿堂入りしているアマ球界の大物ですよ。バルセロナ五輪や法政大で監督経験があり、横浜ベイスターズのフロントにもいた(専務取締役)ことがある。さらに、WBCの技術委員もやっている。そういう意味では、X氏とは格も現場経験も全然違う。交渉が決裂するのは当たり前です」(球界OB)
NPB関係者が語る。
「侍ジャパンの強化委員会は、NPBの井原敦事務局長が委員長を兼ねていて、事実上、NPB事務局と一緒。NPBには読売出身者が多いのですが、井原氏も読売新聞の運動部長から巨人の国際部などを経て、統一球問題で飛ばされた前事務局長の後任に読売グループが押し込んできた人物です。前事務局長は共同通信出身でしたが、また悪しき伝統とも言える『コミッショナー事務局=読売』の色が鮮明になっている。井原氏を筆頭に、強化委員会が黒幕の存在に憤慨の意を示しましたが、原氏の再登板に強烈なノーを突きつけたのは、実質的にはそのバックにいる巨人ということです。今回の“原監督潰し”は原氏が巨人で第3次政権を築く野望さえ消滅したと考えられる大事件なんです」
巨人には、原氏が監督時代にX氏を編成部に押し込もうとして、読売グループが拒否反応を示して問題になった過去がある。当時すでに、一介のメディア関係者でありながら、チーム首脳陣の知らない情報まで監督と共有し、補強面でも暗躍していたという人物に球団をかき回されることを伝統球団が恐れたのは当然だろう。「なぜ原は身内でなく部外者を重用するのか」「組織が壊れてしまう」と非難轟々の中、X氏のフロント入りは実現しなかった。
それだけに今回、再びX氏の名前が出てきた時点で、侍ジャパン強化委員会と、その後ろにそびえるグループが過敏に反応し、原氏の再登板を阻止する動きが過熱したのも当然といえば当然である。
加えて、先にも触れたとおり、あの「1億円問題」も原ジャパンの誕生に大きな影を落としていたという。