ここ数年、時代劇ファンの間で再評価されているのが栗塚旭(80)だ。代表作の「新選組血風録」や「燃えよ剣」がCS放送され、当時を知らない若い世代にも人気が拡散している。
──クリヅカアサヒという時代劇スターらしい響きが、21世紀になって再びクローズアップされているのはいかがですか?
栗塚 同世代の方々から「時代劇専門チャンネルで観たよ」と言われるのは、うれしいことです。ただ私は今も現役の役者ですので、新たな代表作が欲しいとはいつも思っていますよ。
──感服いたします。さて、59年にテレビデビューし、以来、時代劇ドラマの出演が続きました。
栗塚 もう、その時代は映画が斜陽で、どこの映画館もガラガラ。それと逆にテレビがどんどん普及していって、役者にとっては千載一遇のチャンスでした。
──いくつかのドラマで注目され、そして「新選組血風録」(65年、NET系)では、主演の土方歳三役に抜擢されました。
栗塚 これも偶然というか、最初は「素浪人月影兵庫」(NET系)などで人気だった品川隆二さんだったんです。ところが、品川さんが忙しすぎて、僕が代わりにということになった。
──テレビ・映画合わせて5回も演じることになった当たり役・土方歳三との出会いですね。
栗塚 土方が京都に出てきたのが28歳の時。僕も28歳で、大きな夢をかなえるという部分では共通していたんじゃないかと。
──番組の反響はいかがでしたか?
栗塚 NHKからも問い合わせがあったそうですね。何でこんなすごいものが作れるんだと。ただ、番組の予算は少なく、1本当たり200万円でした。
──半世紀前の貨幣価値ではどうなんでしょう。
栗塚 いやいや、同じ時期に「銭形平次」(フジテレビ系)が始まって、あちらは大川橋蔵さんのギャラだけで1本200万円。僕は主演でも1本が2万円だから、百分の一だった(笑)。監督は「俺たちは橋蔵1本のギャラで撮るんだ」と、よくこぼしていましたよ。
──この番組の好評を受け、同じく土方歳三を演じた「燃えよ剣」(70年、NET系)がスタートしました。
栗塚 いずれも東映の製作ですが、実はその間にTBSと松竹が作った「風」(67年)に主演しておりまして、ここでは一気に20万円。そのことで東映が怒ったそうですが、お金のことだけでなく、あの時代はサクセスストーリーがありました。
──役者・栗塚旭の持ち味は、ニヒルな風貌と演技にありましたが。
栗塚 実際の僕はおしゃべりなほうなんですが、例えば土方を演じる時、客観的に見ているもうひとりの自分がいるんです。それが冷徹な演技につながっていたんでしょう。
──その後も「暴れん坊将軍」(テレビ朝日系)の山田朝右衛門などもおなじみの役で、映画も「太秦ライムライト」(14年)など、まだまだお元気です。
栗塚 時代劇が子供の頃から大好きでしたのでね。傘寿でもまだまだくたばらずに頑張りますよ。