X社の職員や作業員も集めて行われる朝礼では、S所長の焦りの色と“本性”がかいま見える場面があった。B氏が打ち明けるには、
「いつもだったら、『寒い中、ご苦労様』と言って始まるのに、突然、『おめえら、仲間をどう思ってんだ! 何で直接言ってこないんだ! いつでも来い!』とどなったんです。みんな訳がわからなくてポカーンとしていました。どうやらS所長とZ組の癒着について書かれた怪文書が別の職員に届いたようです。思い当たるフシがなくて、“シロ”だったら笑い飛ばせばいいのに、激高していたことで“クロ”だと確信しました」
こうした状況下、S所長とZ組の関係が疑いを持たれる発端となった、骨折した作業員の周りでも新しい動きが起きていた。Z組が「労災隠し」のために口封じをしていた件で、富岡労働基準監督署(福島)に匿名の電話がかかり、当事者が事情を聞かれたという。
「ケガをした作業員も労災が下りなかったことに疑問を持っていました。それでも呼び出された時は、必ず同僚の付き添い人が同席して、作業中の事故ではないと繰り返し説明。結局、仕事後に酒を飲んで酔っ払い、階段から足を踏み外して骨折したことになってしまった」
こう話すA氏は、労働基準監督署が他の作業員にもアンケートを取っていれば、真相がうやむやになることはなかったと悔やむ。一方で、骨折した作業員が労災を主張できなかった事情もあった。
「福島第一原発で働くことになったきっかけは、Z組から仕事を発注される二次下請けの関係者による美人局だったんです。出会い系で知り合った女性と肉体関係になったあと、男が出てきて金銭を要求されてしまったといいます。支払うことができず、一筆書かされたうえで、借金返済のために原発作業員として連れてこられ、毎月半分以上の給与をしぼり取られているそうです」(前出・A氏)
それでも今年春頃から、S所長のスキャンダルはすでに騒動として大きくなっていた。ついには、X社の本社内でも知られるところになったという。
「『作業員水増し』で私腹を肥やしていたとなれば大問題です。マスコミが動いている情報も入っていたようで、職員には一切話さないようにお達しが出ているといいます」(工事関係者)
そこでX社の本社にS所長の不正疑惑について質問すると、コーポレート・コミュニケーション部がこう回答を寄せた。
「S個人が不正な利益を得たというご指摘のような事実はありませんでした」
これまでも福島第一原発では、危険手当のピンハネや被曝でガンが発症した過酷な勤務実態が報じられてきた。それでも労働環境は改善されていないようで、前出・A氏はこう語る。
「作業員が休憩する場所にウオーターサーバーが設置されていたのですが、2年ほど前に突然、撤去されたんです。困った作業員がS所長に聞いてみると、『カップラーメンを食べたかったら、トイレで手を洗う水をくんでお湯を沸かせばいいだろ。同じ水なんだから』と真顔で言われていました」
放射線量が低くなって、以前よりも仕事をしやすい環境になったと言われているフクシマの現場。だが、それはウソだと前出・A氏は真っ向から否定する。
「仕事内容は変わらないし、単価も下がっています。宿舎の御飯だって悪くなった。朝に炊いて茶色に変色した米を、晩飯で炊いた白米の上に乗せてくるんです。悲しくなりますよね。福島のために働きたいだけなのですが‥‥」
S所長に向けられた「不正疑惑」が白日の下にさらされる日は来るのか──。