今年もプロ野球はセが広島、パはソフトバンクが優勝する一方、二刀流の大谷翔平のメジャー挑戦がささやかれるなど話題に事欠かない。そこで“球界屈指の論客”であるノムさんこと野村克也氏に緊急インタビュー。「名監督の条件」から大物ルーキーの去就まで、縦横無尽に語ってもらった!
今年のセ・パ両リーグの優勝監督は、緒方孝市(広島)と工藤公康(ソフトバンク)です。この2人に恨みはないけど、見ていて「あぁ、いい野球するなぁ」と思わせてくれる監督ではないですね。緒方は外野手、工藤は投手出身でしょう。捕手出身の私から見ると、「野球とは? 勝負とは?」という問題意識が、いまひとつ伝わってこない。だから、評論家として原稿を書く際にも、ものすごく往生します。まあ、緒方にしても名監督と言うにはまだまだと言わざるをえないでしょう。ただ、広島には内野手出身の高信二、ソフトバンクには捕手出身の達川光男というヘッドコーチがいる。彼ら参謀役が果たした貢献は大きかったと言えるでしょう。
-
先頃、新著「私のプロ野球80年史」(小学館)を出版した野村克也氏へのインタビューは、冒頭からおなじみのボヤキ節全開。南海(現ソフトバンク)、ヤクルトの監督としてリーグ優勝5回、日本一3回の実績を誇る稀代の名将らしく、話は監督論から始まった。
-
80年のプロ野球の歴史の中で、外野手出身の名監督は一人もいないんですよ。外野手出身の監督が日本一になった例は長い間なかった。2001年に、ヤクルトの若松勉がようやく日本シリーズを制覇し、11年の秋山幸二(ソフトバンク)、昨年の栗山英樹(日本ハム)が続いた。いまだにこの3人だけでしょう。手前味噌になりますが、若松は私からヤクルト監督を引き継いでの日本一だから、私の遺産で勝ったと言ってもいいと思います。こういうことばかり言っているから、外野手出身の山本浩二(元広島監督)と顔を合わせた折に苦情を言われたんです。「本当のことやないか!」と言い返してやりましたけどね(笑)。
外野手が試合中に考えることは一つだけですよ。相手打者が打席に入った際、どこに守ればいいかな、とそれだけ。変な所に立っていれば、ベンチから「あっちだ、こっちだ」と指示が出る。野球を深く掘り下げる必要がないポジションなんです。
私の現役時代、試合中に外野の守備位置でバットを構える格好をして、イメージバッティングばかりしている人がいました。敵として見ていて「何やってんだ」と思ったものです。打つことしか考えていないわけです。この人はのちに複数球団で監督を務めましたが、案の定、優勝とは無縁でした。
投手出身者にも似たようなことが言えます。投手の第一条件は「俺の球を打てるなら打ってみろ」という強靭な精神力だから、指揮官になっても精神性を大事にする傾向が強い。星野仙一(現楽天球団副会長)が典型です。もっとも、今の選手は厳しい家庭環境で育っていないので、彼のような監督は逆に時代に合っているのかもしれません。
いずれにせよ、監督というのは、自分自身の現役時代の体験がベースになる。
外野手、投手出身の監督に野球の奥深さを期待できないのは、そういう理由からなんです。