弟子のわたくしが申すのも大変生意気ですが、殿の近くにいてつねづね思うのは、〈しかし殿は、どっからでも面白い話に持ってくな~〉と。要は、“何の話題であっても、それにまつわるオチのあるネタを持っている”ということです。いやいや、芸人さんなのだから、それって普通なのでは? そう思われる方もいるとは思います。が、あらゆるジャンルにまたがる殿のネタ数は“40年近く売れ続けている奇跡の芸歴の長さ”に比例するかのごとく、圧倒的なストック数です。例えば、話に「新幹線」というワードが出てくると、
「昔あれだよ。洋七と新幹線乗った時よ‥‥」
といった具合に、それをきっかけに、しっかりとオチのある“新幹線での面白思い出話”を、瞬時に加速してしゃべりだすのです。
少し前も、ただ会話の中に“下北にうまいカレー屋がある”といった、何てことのない楽屋での雑談から、
「昔あれだよ。ライスカレーって漫才師とさんまちゃんと、ものまねのコロッケが営業で一緒になったんだよ」
と、芸名が全員“食ベ物”な方々が地方の営業先で一緒になった時の話をすぐさま語り出したのです。
「そしたらよ、イベンターと地元の興行主が揉めてんだよ。『まずはライスカレー出して、その後コロッケで、最後にさんまで行きますか?』『いやいや、それは違うでしょう。やっぱし最初はコロッケで、その後がライスカレーで、最後がさんまでしょ』『いやー先にコロッケはない! 絶対にライスカレー、コロッケ、さんまの順で決まりです!』なんてよ。カレーにコロッケって、お前たちは国道沿いの食堂か!」
こういった“上質のネタ話”のストックが、恐ろしいほど完備しているのが殿なのです。さらに申しますと、プライベートだろうと仕事だろうと、こういったストックネタを語る時は、瞬時に漫談モード全開になり、大変高いテンションで、本域でしゃべるのです。かつて、“えー! そんなワードでも面白話あんの?”と、驚いた事柄をいくつか紹介します。まったくプライベートの酒席にて、税金の話になった時のこと──。
「税金って言えば、俺が昔、ロケの待ち時間に公園のトイレ入って大したら、トイレットペーパーが1個もないんだよ。こっちは毎年鬼のように税金払ってんのに公共の施設で拭く紙がないんだぞ。思い切って亡命してやろうかと思ったよ」
で、ここで終わらないのが殿です。
「漫才ブームで売れた時もよ、後で税金払うなんてまったく頭になかったから全部使っちまったら、翌年にドカンと税金がやってきて、当然払えねーから近所の○○信用金庫に金借りに言ったら、『漫才ブームはあと半年で終わります。ですからあなたには貸せません』なんてはっきりと言われたんだよ。そしたらホントに半年でブームが終わっちまったんだから」
と、瞬く間に本域で2ネタ披露する殿なのです。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!