20年前、殿に弟子入りして、まずはダンカンさんの付き人を1年務めたわたくしでしたが、“1年経ったし、そろそろ殿の付き人に昇格させるか”といった流れに伴い、“では、殿の付き人お試し期間”として、当時、殿が毎日通っていた大型ゴルフ練習場で打席を確保する“ゴルフ当番”を務めることになったのです。
ゴルフ当番になって2週間程経った頃、いつものように打ちっぱなしの打席を確保して、殿の到着を待つこと1時間。運転手がハンドルを握るドイツ産のセダンで駐車場に現れた殿を出迎え、ドアを開けて挨拶をすると、
「あんちゃん、今日は飯食わないでちょっと待ってろな」
と、実にワクワクする発言が飛び込んできたのです。
で、殿の運転手を務めている兄さんから、「この後、殿と飯に行くことになるけど、出された物は全部食べて失礼のないように」とアドバイスを受けたのです。
突如降って湧いた殿との初めてのお食事!
興奮しながらも、“何かボロが出て殿に嫌われたら怖い”そんな不安を抱いたのをよく覚えています。
練習を終えた殿を車まで見送り、次なる殿からの指示を待っていると、車に乗った殿はいつものようにあっけなく、
「じゃーな」
と告げ、そのまま帰って行ってしまうではありませんか! あれ? 飯は? ぼう然と立ちつくし車を見送っていると、車は20メートル先で急停止。猛烈な勢いでバックで戻ってきてわたくしの前でピタリと止まると、後部座席のウインドーが下がり、中から顔をのぞかせた殿が、
「悪い悪い。お前と飯行くんだったな。忘れてたわ。おい、ちょっと乗っちゃえ」
と車への同乗を促してきたのです。内心ホッとしながらも慌てて助手席に乗り込むといきなり、
「あんちゃん、肉好きか?」
との問いが──。
「は、はい」
そう答えると、
「おい。じゃーよ、六本木の『叙々苑』にちょっと行ってみっか」
と、殿は行き先を運転手に告げたのです。叙々苑! 育ちの悪いわたくしでも耳にしたことのあるあの叙々苑か! うまいんだろうな~。でも猛烈に高いんだろうな~。と、店までの道すがら、後部座席の殿からの想像以上の“圧”をビンビンに感じながらも、気持ちは“肉”に持って行かれていると、突如、
「プ~~」
っと、実にマヌケな屁のサウンドが車内に響くと同時に、小さな声で、「あ~っ」といった殿のうめき声が後ろから漏れ聞こえてきたのです。
予期せぬお食事会。そして狭い車内での子供の頃からあこがれていた方の生の屁。次々に襲い掛かるビッグサプライズに、屁の臭いも手伝ってか、頭がクラクラしながらも、〈とにかく、しくじらないように〉と、強く心の中で自分に言い聞かせ、助手席に身を沈めるわたくしなのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!