女性ロック歌手の草分けであり、観客の熱狂ぶりから「総立ちの女王」の名が冠せられた白井貴子(58)。83年から番組を始めると、女王らしいこだわりを随所に見せた。
「第1回のオンエアをファンの人がカセットに入れて送ってくれたんですけど、聴いた瞬間にスイッチをオフにしたくなるくらい、おびえた声で話していますね」
ライブハウスではテーブルに飛び乗って歌うほどパワフルな歌唱だが、実はステージでもMCは苦手。そもそも、ステージ衣装もジーンズがほとんどという地味な印象だった。
「それを文化放送の渡辺勲ディレクターに指摘されたんです。ステージ上でも恥ずかしがっている部分が見えたんでしょうね。私に『ジーパンじゃビッグになれないよ』って」
翌日からミニスカートに変えた。それが心を解放する手段だった。しかも、ほとんどのデザインを自分で手がけた。まだスタイリストなどと無縁の時代だったからだ。
「そして『オールナイトニッポン』をやることになって、私は2時間、レコードだけでつなぐようなスタイルにしたいと思ったんです」
同番組にはイルカや中島みゆき、谷山浩子など「イメージと違うしゃべり」で人気を博した先輩アーティストがいた。白井は、そのスタイルをうらやましいと思いつつ、自身は真面目に取り組もうと思った。
「当時はライブがあって、作詞作曲の時間があって、さらにテレビや音楽誌の取材など、寝る間もないくらいでした。放送は夜中3時だから、いったん家で仮眠することも考えたけど、私は早い時間から局のレコード室にこもっていました」
番組には構成作家がついているが、白井は極力、自分で組み立てたいと思った。選曲は、自身のルーツであるT・レックスやデヴィッド・ボウイ、ビートルズなどを中心に、番組の大半を純然たる音楽でつなぐ。そのため、レコード室で数十枚を探す膨大な作業を要したものだった。
「ただ、1時間20分からは、ファンの人たちの恋愛話や悩みとしっかり向き合うコーナーを作りました。打ち明けたくても打ち明けられないことを、私にだけハガキで伝えてくれる。私自身もつらいことはたくさんあったけど、リスナーとのいい関係が作れました」
ハプニングが一つ。局に向かうタクシーに大事なカバンを忘れたことがある。その日のオンエアでそれを話したら、偶然にもそのタクシーの運転手が放送を聴いており、ニッポン放送まで届けてくれた。
昨年にはザ・フォーク・クルセダーズのメンバーで、作詞家としても活躍した北山修に指名され、「あの素晴らしい愛をもう一度」や「風」、「さらば恋人」など、北山作品のカバーアルバムを発売。
「北山さんも、かつて『自切俳人』の別名で人気パーソナリティでしたよね。オールナイトニッポンがつなぐ縁なんだなって実感しました」