「何たってポールさんだな。もうメチャクチャなんだから」
殿が“売れなかったあの時代”を振り返り語る時、かなりの確率で登場するのが、故・ポール牧師匠です。殿が世に出る夜明け前、ポール師匠は殿をたびたび誘い、飲みに連れていってくれたそうです。殿は当時の思い出を話しだすと止まりません。
「ポールさんが昔、新宿で『竹馬』ってスナックやっててよ。そこで働いてるポールさんの弟子が夜中に、『師匠、今、赤いジャンパーの男に殴られました』って電話かけてきたんだよ。それ聞いたポールさんが怒ってよ。『ふざけやがって。カタキとってやる!』って店に飛んでって、『どこにいんだ!? その赤いジャンパーのヤツは!!』って。店中さんざん探し回って、『なんだ、どこにもいねーじゃねーか。野郎、逃げやがったな!』って言って最後にトイレのドア開けたら、2メーター近くはありそうな真っ赤なジャンパー着た大男が立ってたんだよ。それ見たポールさん、『うん。ここにもいない!』って、そっとドア閉めたんだから」
「ポールさんと飲んでたら、『たけし、ちょっとウチ寄ってけよ』ってうるさいから、最近引っ越したっていうマンションまで夜中に行ったんだよ。そしたらピカピカの新築でよ。『どうしたんですか、ここ?』って聞いたら、『たけし、芸人なんだからこのくらいのマンションの一つや二つ買えないでどうすんだよ』って自慢すんだよ。それで朝まで飲んで外が明るくなったから、『ポールさん、そろそろ帰ります』ってマンション出て後ろ振り返ったら、『オール賃貸』ってのぼりが立ってたんだから」
しかし、いちいち最高です。で、わたくし的には、ポール師匠が買ったばかりの中古の外車で、日光いろは坂までドライブに行った際、うんこがしたくなったため、車を停めてドアを開け、ドアに隠れて野グソをしていると、サイドブレーキが壊れていて車が坂を下り出してしまった。慌てたポールさんがズボンを下ろしたまま車を止めようとし、中腰になって後ろ手で前のバンパーを押さえるも、そのまま車に押され、下半身を露呈しながら、観光客の悲鳴が上がる中、坂を下っていった──この話が大好きです。
最後に、“これぞポール師匠!”と思えるエピソードを一つ──。
「昔、コント山口君と竹田君の竹田君が、ポールさんの弟子で付き人やってたんだよ。でも、当時のポールさんは忙しい時でよ。朝8時からポールさんを迎えに行って、夜までみっちり付いて、それが終わったら、今度はポールさんのスナックで夜10時から朝の5時までタダで毎日働いて、それでスナックで2時間くらい仮眠とって、また朝からポールさんを迎えに行くって生活を2年間続けてたら、さすがに竹田君も体壊しちゃってよ、『師匠、すいません。もう体がもちませんので辞めさせてください』って言いに行ったら、ポールさん、『この、恩知らず!』って、怒鳴ったんだから」
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!