それにしてもなぜ錣山親方は反旗を翻したのか。
「事件後、警察の捜査を最優先とし、協会に対しては完黙を貫く。この巡業部長とは思えない貴乃花の不可解な言動の背後には、北の湖理事長時代に協会顧問を務めたK氏のアドバイスがあったと言われている。K氏はパチンコ業界から現金を受け取る姿がネットに流出するなど裏金疑惑が浮上したほか、昨年末に協会から1億6500万円の損害賠償請求訴訟を起こされたいわくつきの人物。この人物を頼みとする貴乃花親方に、さすがの改革派の錣山親方も見切りをつけたのです」(相撲担当記者)
この分裂で、一枚岩だった一門は修復不能に陥ったのか。
「必ずしも一門の名称=責任者ということはなく、そういう一門は複数ある。貴乃花一門の場合も、実は書類上の責任者は阿武松親方です。貴乃花親方の一門内での求心力が低下していることもあり、錣山親方としては、責任者が代わっていればそれでいいと考えています」(相撲部屋関係者)
加えて、暴行事件では被害者側の親方であるにもかかわらず、相撲協会からの風当たりも強くなる一方だった。貴乃花親方は今年1月4日に、巡業部長として協会に報告義務を怠ったなどとして理事解任の処分を受けたばかり。それだけに、わずか1カ月余りの解任期間で、理事に返り咲いたとしても、池坊保子氏が議長を務める評議員会が、理事就任を認めない可能性も指摘されてきたのだ。
仮に理事に再選されたとしても評議員会から否認されれば貴乃花一門の理事はゼロになってしまう。そうなると相撲協会の最高機関である理事会に参加できなくなり、角界での影響力はなきに等しくなってしまう。ここは、何としても一門から理事を輩出しなければいけないという“事情”が貴乃花一門の分裂を招いたのだ。前出の相撲部屋関係者が内実を訴える。
「貴乃花親方がそれでもダブル出馬に踏み切ったのは、一度、振り上げたこぶしを下ろしてしまったら弟子の貴ノ岩を土俵に復帰させるという大義が果たせなくなるばかりか、対立する八角理事長の軍門に下ることになってしまう。そうなると貴乃花親方の宿願である角界改革も大きく後退することになる。そもそも理事職は一門内の親方で持ち回りのため、貴乃花親方に対して『一回休んでは』という声も出た。そこで貴乃花は一計を案じ『皆さんは阿武松親方に投じてください』と話して、理事選の結果よりもまず、単身出馬に打って出たわけです」
理事選立候補前日の1月31日、愛弟子・貴公俊(20)の十両昇進会見に同席し、喜色満面の笑みを浮かべた貴乃花親方だが、その笑顔の陰で胸中には期するものがあったようなのだ。