2007年第79回春の選抜で静岡県勢としては史上4校目となる優勝を飾った常葉菊川。その原動力は高校野球の基本ともいえるバントを封印した“超攻撃的”な野球スタイルを貫いた打線だった。
初戦でいきなりこの年のドラフトで高校ビッグ3と呼ばれた剛速球右腕の佐藤由規(東京ヤクルト)擁する仙台育英(宮城)と激突。常葉菊川打線は佐藤の150キロを超す直球と高速スライダーに手を焼き、先発の9人中8人が三振を奪われるなど計14奪三振。手も足も出ない状態だった。だが、4回表。この試合唯一のチャンスが訪れる。死球、四球、ヒットで1死満塁。そこでこの日、唯一佐藤から三振しなかった7番・前田隆一がフルカウントからのフォークをレフト前へ運び、2点を先制したのだ。その裏、左腕エースの田中健二朗(横浜DeNA)が1点を失ったものの、カーブ、スライダーの制球がよく、相手打線に的を絞らせなかった。結果、2‐1で競り勝ち、初戦を突破した。
2回戦では今治西(愛媛)に10‐0と大勝した。0‐0の5回表に4長短打を集めて一挙に6点を先制し主導権を握った。投げては田中が被安打3の17奪三振。完勝だった。
続く準々決勝ではまたも難敵とぶつかった。高校ビッグ3の1人で超高校級の怪物・中田翔(北海道日本ハム)擁する大阪桐蔭である。この大会の最有力の優勝候補チームで中田はエース兼4番の“二刀流”をこなす文字通りの大黒柱。この強敵相手に常葉菊川は6回裏に1点の先制を許すも、8回表に田中の三塁打をきっかけに同点に追いつく。だが、その裏に最大のピンチが。2死二塁の場面で打席には4番・中田。この試合、田中は中田をノーヒットに封じていたが、前の試合では2打席連続本塁打を放つなど、5打点の大活躍。当然、敬遠が考えられたが、過去2打席で内角攻めをしてきた布石がこの場面で効いたのである。あわや勝ち越し2ランという当たりが、スタンド1メートル手前で失速。この最大のピンチを切り抜けると最終回に中田から勝ち越しの1点を奪取。2‐1で競り勝ち、ベスト4進出を決めたのである。準決勝では九州の古豪・熊本工と対戦。先発の田中が4回までに4失点。8回を終わって3‐4と劣勢だったが、9回表無死から連続二塁打で同点とすると、その後も強攻策で2安打が飛び出し3得点。5回から不調の田中をリリーフした戸狩がその裏もしっかりと締め、6‐4の逆転勝ちでついに決勝戦へと進出したのだった。
迎えた決勝戦はこの選抜で初出場を果たした大垣日大(岐阜)。東海決戦となったが、4‐5とリードされていた8回裏2死から常葉菊川打線が3長短打に相手エラーを絡めて一気に逆転。先発の戸狩から田中への継投もハマり、6‐5で勝利し、春の選抜初優勝を飾ったのである。なお、この大会で優勝した常葉菊川が全5試合で記録した犠打はわずか1。接戦でも超攻撃スタイルを崩さない、ブレないチームカラーがもたらした勝利でもあった。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=