いよいよ梅雨の季節がやってきた。ジメジメしてなかなか寝つけずに、夜中に何度も目が覚めて眠った気がしない。そんな寝不足の状態が慢性的に続くと「睡眠負債」が積み重なって、ガンや認知症などの発症リスクが増大するという。傾向と対策を専門家に聞いた。
昨年6月放送の「NHKスペシャル」で〈“ちょっと寝不足”が命を縮める〉と題して放送されて以降、大きな関心事となったのが「睡眠負債」なる聞き慣れない言葉だ。放送のきっかけとなったのは、米・スタンフォード大学医学部の西野精治教授が書いた20万部を超えるベストセラー「スタンフォード式 最高の睡眠」(サンマーク出版)。同著では、睡眠負債に陥ると、
〈借金同様、睡眠も不足がたまって返済が滞ると首が回らなくなり、しまいには脳も体も思うようにならない「眠りの自己破産」を引き起こす〉
このように危険性を訴えている。
睡眠改善シニアインストラクターの柳川義継氏が、あとを引き取って解説する。
「毎日6時間睡眠をとっていても、それを2週間続けた場合、2日間徹夜したと同じ疲労が蓄積されると言われます。しかし、6時間寝ていれば、本人としては自覚症状がない。そして、そんな負債が何年、何十年間も続くと、脳をはじめ、体のあちこちにダメージが現れる。つまり、破産してしまうんですね。特に40代、50代の働き盛りで睡眠負債を抱えてしまうと、それが20年後の60代、70代になって出てくる。それが睡眠負債の怖さなんです」
当然のことながら、人間は「寝だめ」ができず、たとえ週末に10時間寝ようと、この睡眠負債を簡単に解消することはできない仕組みになっている。となれば、睡眠不足という借金は膨れ上がる一方で、その先には破綻という結末が待ち受けているというわけだ。
ところで不眠が続くと、脳内ではどんな変化が起こるのだろうか。神経内科医で米山医院院長の米山公啓氏によれば、
「寝ている間、脳内では記憶を定着させたり、神経細胞を刺激して発達させる神経栄養因子が増え、脳を保護しています。また睡眠中には、“脳内の清掃”が進み、アミロイドβという不要な老廃物を排除しているんです。ところが不眠が続くと、このアミロイドβが蓄積されてしまう。そして、このアミロイドβの蓄積はアルツハイマー型認知症の要因の一つとして考えられています」
さらに睡眠負債は、ストレスホルモン「コルチゾール」の分泌を促し、脳にさらなるダメージをもたらすというのだ。このダブルの弊害により、
「睡眠不足が続きコルチゾールが過剰に分泌されれば、記憶をつかさどる海馬の働きが阻害されてしまうんです」(米山医師)
仕事にかまけて寝不足を放置し続けた結果、気がつけば認知症に‥‥なんていうことになったら目も当てられない。