脳へのダメージだけではない。睡眠負債には、血圧や血糖レベルを高め、心筋梗塞を招く高血圧や糖尿病といった生活習慣病の罹患リスクを高める危険があるほか、ガンのリスクを高める可能性もあるという。説明してくれるのはガン専門医として知られる健康増進クリニックの水上治院長だ。
「よく、寝不足になると風邪をひきやすくなったり、肺炎になりやすくなりますが、これは免疫力が低下するためです。ガンになる細胞を殺すのがリンパ球の役割ですが、寝不足が続けば、このリンパ球の元気がなくなります。そのため、ガン細胞が暴れやすくなる。また、免疫力が下がれば粘膜もダメージを受けやすくなるので、体内でのウイルスが活動的になり、肝臓なら肝炎から肝硬変、肝ガンに移行する可能性も高いと考えられます」
さまざまな疾病リスクを生む睡眠負債。では、自分自身の睡眠不足をチェックする方法はあるのだろうか。柳川氏が言う。
「睡眠を考える際は、眠る時だけを考えるのではなく、日中の体調なども重要です。例えば日中の活動期間中に、極度の眠気がくる、体がだるい、意欲が落ちているといった自覚症状があるとしたら、それがサインである可能性は高い」
ただ、適切な睡眠時間には個人差があるため、一概に「何時間寝れば睡眠負債にならない」とは言い切れない面もあるようだ。
「厚生労働省のデータによれば、65歳で平均が6時間程度。45歳の場合は30分増えて、だいたい6時間半。25歳の場合は7時間くらい。これを目安に自分の年齢と平均的な睡眠時間を照らし合わせて、例えば7時間眠った日と6時間だった日の活動状況をチェックしておく。そうすることで、自分の適切な睡眠時間が導き出されるはずです」(柳川氏)
そのうえで、生活習慣を見直すこと。そして睡眠の質を上げることが、睡眠負債の解消に有効だという。柳川氏が続ける。
「まずは朝日を浴びること。それが体内時計のスイッチを入れてくれます。そして、光を浴びてから14時間から16時間くらいの間に眠気がくるように人間の体のリズムはできている。朝日を浴びることで、夜には良質な睡眠を促すメラトニンがキチンと分泌され、副交感神経も優位になる。だから、スタートは朝にあると考えるべきです」
朝、気持ちよく目覚めるためには、就寝前のスマホやパソコンは厳禁だという。
「せっかく朝日を浴びても、夜に光を浴びてしまうとメラトニンが分泌されなくなってしまう。しかも、スマホは目に近い分、刺激が強いので、なかなか眠れなくなる。つまり、百害あって一利なしということです」(柳川氏)
心当たりのあるアナタ、今夜から睡眠借金の返済を心がけようではないか。