オウム真理教の教祖・麻原彰晃(本名・松本智津夫)に死刑が執行された。重大局面を迎えた中、オウム回帰が進むアレフの動向にも注目が集まる。そこで、かつて麻原の側近としてスポークスマンを務めていた上祐史浩氏を直撃。麻原死刑後の“オウム”が語り尽くされた。
法務省が法に従って行うことに、かつての教団に重大な道義的責任がある私が、何かを言う立場でもないと思いますが、地下鉄サリン事件発生から23年、06年の麻原の最高裁判決(死刑確定)からも12年が経過している‥‥法規上は(死刑の執行は)判決から6カ月ということもあり、また、被害者の方のお気持ちも考えるならば、長かったな、と思います。
加えて、私個人の話をするならば、07年以降はアレフから脱会・独立して、麻原とアレフを批判してきましたので、麻原からしてみれば、裏切り者の立場です。仮に、麻原と教団が昔のように健在であれば、場合によっては、ポア(オウム真理教が敵対勢力の殺害を示す隠語)の対象になりかねない一面もある状況。そういった意味でも、ようやくだなという気持ちがあります。
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かつてオウム真理教のスポークスマンとして教団の主張を代弁してきた上祐史浩氏(55)。だが、07年にオウムの事実上の後継団体であるアレフを脱会。08年に脱麻原宣言を標榜する「ひかりの輪」を設立する。
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麻原を死刑にすれば、アレフがかつてのオウムのように武装化するといった疑念があることを知っていますが、それはないと思います。ヴァジラヤーナ(オウムによる暴力革命を肯定する麻原の教え)を信じ、確信犯的に武力活動を行っていたオウム時代の幹部信者と違い、今のアレフは幼稚な陰謀論だけの団体です。その幹部は、オウム時代に武装化の経験もなく、現状維持の保身や布教拡大が中心です。
そして、公安調査庁が言うような、死刑後の神格化による脅威についても、実際は、必ずしも死刑が契機になるとは考えていません。麻原は自分の予言や講話の中で、磔になって処刑されたイエス・キリストとは違って、自分は軍事的な王として勝利したダビデ(古代イスラエルの王)の役割だと述べていた。つまり、武人の王という表現を取りつつ、世紀末に現れた救世主=自分は不死なんだというメッセージを送り続けていました。それを獄中からも繰り返していたのです。
となると、麻原の死刑が遅れるほど、麻原が超人的な力を持って死刑を回避しているとアレフの信者は解釈します。さらに言えば、結果的に死刑が遅れたことで予言が成就したと判断することも可能です。その一方で、アレフには自分たちが麻原に帰依をすればするほど麻原は死なない、帰依をやめると麻原は死んでしまう、という考えがある。死刑執行は、こうした妄想的な考えに楔を打つことになります。
こんな話もあります。12年の頭に、特別指名手配されていた平田、K、高橋(元オウム信者・平田信受刑者、無罪になったKさん、高橋克也受刑者)が逮捕、出頭した際、アレフの幹部は信者に対して、自分たちが麻原への帰依を深めていたからこそ、平田らが出頭し、死刑が延びた、と説いたのです。自分たちの帰依に応えた麻原が超能力で死刑を延ばしたという解釈でしょう。そして、今後も(麻原に)生き続けていただくためには、自分たちがその教えを学ぶ必要があるなどと説いています。
これは公安調査庁が裁判に提出した幹部信者の講話を録音したものからも確認できるし、私も脱会信者から同様の話を聞いています。
※本記事は週刊アサヒ芸能7月12日号(7月3日発売)に掲載