夏になると汗が気になる季節。関東では6月中に梅雨明けし、本格的な暑さが到来しています。ここで質問です。健康のバロメーターである汗ですが、緊張の汗と運動の汗の成分に違いはあるでしょうか。
例えば、気温27度で1時間歩くと汗の量は約200ミリリットルに達します。気温26度でサッカーをすれば、90分間で発汗量は約2リットル。運動中以外にも、入浴(43度に10分間つかると約400ミリリットル)や睡眠(29度で8時間眠ると約500ミリリットル)でもかなりの量の汗をかいています。
そもそも汗とは「熱くなった体を冷やす」ラジエーターの役割をしており「体温調節の手段」です。
夏の炎天下では座っているだけで汗が噴き出ますが、汗が体をクールダウンしてくれるので、私たちは暑さを乗り切れるのです。仮に汗をかかない人の場合は10分ともたないでしょう。
さらに、汗の量が少ないと新陳代謝が低下しているとも言えます。エネルギーを体内に蓄えてしまう体質は肥満体質につながります。免疫力も落ちますし、冷え性になるなど悪いことずくめです。
中には汗をあまりかけない「無痛無汗症」という遺伝性の難病の方もいらっしゃいます。この場合、全身の痛覚がないため痛みを感じないばかりか、発汗が低下することで体温の制御がきかず、高体温や低体温になってしまいます。そうなると、熱中症や急性脳症などの可能性も高くなります。汗をかくたびに「臭くて嫌だ」「ベタつくのがうっとおしい」と思うかもしれませんが、汗をかくのは体が正常に機能しているという証しなのです。
ちなみに汗をかいたら水分と塩分補給が必須です。人間が摂取する塩分は1日平均11グラムですが、3リットルの汗をかくと9グラムほどの塩分を喪失するので塩分補給も重要となります。熱中症対策として、水分と塩分を同時補給できるスポーツドリンクが最適です。
発汗には高温や運動で生じる「温熱性」の汗に、緊張やストレスが源となる「精神性」の汗も存在します。
額や全身から噴き出る「温熱性」の汗はエクリン腺という汗腺を経由しており、無臭でサラサラしています。加えて、体温調節も担っています。対して、手のひらや足の裏、ワキから生じる「精神性」の汗はアポクリン腺を経由するためベタついており、脂質やタンパク質など臭いのもととなる成分を含んでいます。人前で話したり、初対面の人との会話など、緊張が要因となるため「緊張汗」とも呼ばれています。
中でもワキは、エクリン腺とアポクリン腺が共存する箇所で、温熱性と精神性、両方の汗を出します。同じワキ汗でも、運動中の汗と、仕事や緊張などストレスによる汗で臭いが異なるのは、汗腺が異なるためなのです。足の裏を例にすると、精神性の汗は両足で1日約200ミリリットルほど出ます。
また、二つの汗は気持ちよさも異なります。運動中の汗は温熱性でリラックス効果があり気持ちいいものですが、ストレスや緊張により過剰な分泌となる精神性の汗は、多汗症という症状につながることもあります。特に更年期の多汗症は、主にストレスが要因ですので、休日は運動や趣味に打ち込むなどしてください。
こうした汗腺機能は加齢により鈍ります。加えて、温度や外気の環境に鈍感になり、さらに発汗もない状態で知らずに脱水症状に陥り、熱中症に陥るケースも少なくありません。高齢によるエクリン腺の機能低下は、命に関わる深刻な事態となりうるので、今の時期は注意してください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。