人の発毛についてはそのメカニズムの解明が今もって、まだまだ不十分なため、多くの研究が続けられているのが現状だ。
そんな中、鳥取大学の研究グループは、カニ殻由来素材に発毛効果があると発表している。鳥取大学大学院化学バイオコース・伊福伸介教授の研究グループは、カニ殻から生成できる極細の繊維物質キチンナノファイバー(CNF)の関連物質に発毛を促す効果があることをマウスの実験で確認した。
鳥取は国内有数のカニの水揚げ基地として知られる、言わずと知れたカニの産地。日本海一帯のズワイガニやベニズワイガニが集まり、結果、大量のカニ殻が廃棄物として発生してきた。
鳥取大学はこのカニ殻の利用を探り、研究。カニ殻の主成分である「キチン」をナノファイバーという極細の繊維で抽出することに成功し、その実用化を進めてきた。
その製法はとても簡単で、カニ殻を薬品の入った釜で煮てタンパク質やカルシウムを除くだけだという。しかも甲殻アレルギーの原因物質であるトロポミオシンと呼ばれるタンパク質はカニの身由来のため殻には含まれてないのだ。伊福伸介教授は自分の論文などにこう書いている。少々長いが紹介しよう。
〈これを電動式の石臼で粉砕すると幅が10ナノメートルの非常に細い繊維が取り出せる。10ナノは髪の毛の太さのおよそ1万分の1のサイズ。例えば1%の濃度のキチンナノファイバー分散液を0.5ミリリットル取り出した時、その中に含まれる繊維の長さは地球一周分に相当する。キチンは昆虫の外皮やキノコにも含まれており、地球上にたくさん存在する。しかし、キチンは水に溶けないため加工がしにくく、使い道がほとんどなかった。一方でキチンナノファイバーは水によく分散してジェル状になるので、他の素材と混ぜたり用途に応じていろいろと加工が出来るようになった。私がキチンナノファイバーという特殊な繊維を取り出すことができたのは、カニがもともとナノファイバーを作ってくれているから。鋼鉄並みと言われる強いキチンナノファイバーを殻に蓄えて、外敵から身を守っているのです。ですから、キチンナノファイバーをプラスチックに混ぜると、透明性やしなやかさをそのままに、大幅に強度をアップできます。また、熱をかけてもほとんど変形しない。このナノファイバーの研究の過程から発毛のヒントを得た〉
何でも、毛髪や毛根がマイナスに帯電することが多いため、プラスに帯電したキトサン化CNFが毛根により浸透して、発毛を促す可能性があるのではないかと着目し、実験、研究を続けてきたという。その結果、マウスの背中の毛を剃った場所にカニ由来の物質とミノキシジル(発毛剤)を塗った結果、ミノキシジルでは剃った面積の平均14%で発毛していたのに対し、カニ由来の物質では27%で発毛したのだった。今現在、実用化に向け、さらに研究が続けられているという。薄毛の男性の期待は高まりそうだ。
(谷川渓)