そうなれば、しめたもの。
「あとはお坊さんの説法のような話に移行する。例えば、親が残した遺産を奪い、殺し合いになった事件があれば、それを引用して、ため込むだけため込んで死ぬことがいかに寂しい人生か、などなど。たった一度の人生でせっかく手に入れたお金を使わない日々を送っていいのか、という気持ちにさせたあと、いよいよ本題の高額商品が登場し、説明に入るというわけです」
もちろん、商品説明も用意周到。「新聞で取り上げられた‥‥」「長い歴史の中で認められた‥‥」「ごく一部の限られた地域でしか採取できない‥‥」「市販のものより吸収率が3倍違う‥‥」などのフレーズを多用する。
「この商品がいいものだということを完璧に信じ込ませます。そのため、客は我に返っても、訴えるというところまではいかない。それが他の悪徳商法と一線を画すところなんです」
別掲のトラブル一覧表で、催眠商法が上位にランクインしていないのは、そもそも、だまされたという意識で憤慨したり、相談するということ自体が少ないからなのだ。
ロバート氏が勤務していた会社では一定期間、一カ所にとどまり、セミナーなどを開催していたが、
「短い開催期間で別の場所に移動してしまうと『あの会社は売るだけ売っておしまい』と信用を失ってしまいます。長期にわたって開催したほうが深く信じ込ませることができるし、数カ月後にリピートも可能。ただ、同じ顔ぶれの客たちに高額商品を売り続けるのには限度がある。つまり、信用されつつ売り続けるためには、2カ月ほどがマックスの期間なんです」
その2カ月間には、その日ごとに意味があり、あるいは全体のストーリーがある。最初の1カ月で高額商品を一つでも買ってくれる会員を一人でも多く作り、次の1カ月で、その会員にあれもこれもと勧めていくのだ。
「私が勤務していた会社は健康食品や健康布団のほか、十数種類の商品を扱っていましたが、正直、商品はなんでもいいんです。なぜなら、一度買ってくれた客は、その多くがもう一度買ってくれるから。現金で買えなければ、ローンを組ませる。従業員の間では、そういう太い客の取り合いが続くんです」
つまり、セミナー開催中の2カ月で、従業員と客との間にどれだけ強い人間関係を作れるか、がカギとなるのである。
「80歳くらいのおばあちゃんにしてみたら、20代、30代の男性従業員は孫も同然。それが『おばあちゃん、毎日来てくれてありがとう』と接客してくれて、『これ、僕からおばあちゃんだけへのプレゼント。他の人には言わないでね』と、そっとお土産を手渡す。一人暮らしでふだん優しくされたことのないおばあちゃんが舞い上がるのは当然のこと。自分を認められた気持ちになる」